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AV新法で苦しめられているAV出演者たちが抱える深刻な問題が二次利用作品、いわゆるオムニバスAVだ。
業界の問題に詳しい大学教授や弁護士といった専門家で構成される実演者地位向上委員会は、2025年1月31日に一般社団法人映像実演者協議会に対して、二次利用作品の制作・公表に関する出演者の意思確認や契約の締結が望ましいものであることを出演者及び関係者に働きかけるよう求める提言を行ったことを発表した。
(参考URL:映像実演者協議会「二次利用作品に関するお知らせ」)
https://actresses-actors.com/archives/news/293/
どういうことかというと、まずオムニバスAVとはなにかを知ってもらいたい。オムニバスAVは、過去に発売されたAVの一部または全部を再編集するなどして、同一女優の作品を複数まとめて再販売したり、多数の女優の作品を組み合わせて新たなタイトルで販売するといった二次利用作品を指す。
このオムニバスAVがここ最近急激に増加しているが、出演者に適正な報酬を支払っていないメーカーが多くあることが問題となっている。
同問題の背景は、AV新法で二次利用作品の定義と契約締結義務の範囲が明確にされなかったことが要因のひとつ。
AV新法では「全てのAVの販売にはすべての出演者との契約が必要」とされ、契約内容には撮影の詳細、販売の詳細などを明記することが定められているため、AV新法が施行された2022年6月以降に撮影された作品はメーカーが勝手に二次利用することはほとんどない。
しかしAV新法施行以前の作品については、契約を結んでいなかったり、契約書に二次利用の条件について明確にされていないものが多く、一部のメーカーはAV新法施行以前に撮影された素材を使った二次利用作品は、過去の作品と同一なものだから新たな契約締結が不要であると解釈し、出演者の同意や出演料について新たな契約を交わすことなく、オムニバスAVを発売することにつながった。
原価がほとんどかからないため、何度も何度もタイトルや組み合わせを変えてメーカーが販売してしまうにつながっており、出演者も一度出演した作品が、本人たちも把握していないところで二次、三次利用作品として無限に複製されている状況に困惑している。
このようなオムニバスAVが多数販売されているにもかかわらず、出演者にはほとんど報酬が支払われていないという点について専門家が出演者の権利保護について警鐘を鳴らしたというのが今回の発表である。
このような問題はユーザーにとっても非常に由々しき問題だ。
新たな作品だと思って買ってみたら、過去に見たことがある映像ばかりだった、という残念な結果になってしまったり、安価なオムニバスAVに押されて撮りおろしの新作が売れなくなり、新たな作品が作れなくなったメーカーが倒産したり、ひいてはAV業界そのものがつぶされてしまうことになりかねないのだ。
今回、同協議会が発表したのは、「オムニバスAVを制作・販売するときは、出演者と新たな契約を締結して、適正な報酬を払ってください」というもので、テレビや映画の業界では、すでにこのような二次利用に関する考え方が幅広く導入されている。例えばヒットしたドラマが何度も何度もテレビで再放送されて放送局が収益を得ても、出演者に対価を払わないのはおかしいのではないか、ということである。
また、2025年1月10日に参議院のHPに掲載された政府答弁書では、「オムニバスAVには同一性がないと認識している」、「AV新法施行以降に販売されるAVにはすべてAV新法の契約義務が適用される」、という見解が示された。オムニバスAVを販売するメーカーが主張する過去の作品と同一の作品だから新たな契約は必要ないという解釈に否定的で、新たな契約をせずに販売するAVには、AV新法違反の刑事罰を科す場合があると捉えることができそうだ。
オムニバスAVの問題が解決され、出演者の権利を守られることでAV業界が存続し、これまで築きあげてきた文化が失われることがないように祈るばかりだ。