映画『HYODO 八潮秘宝館ラブドール戦記』
主演・兵頭喜貴インタビュー
世界中からマスメディアの取材が殺到し、日々、観光客が訪れる日本屈指の珍観光スポット「八潮秘宝館」。その館長を務める兵頭喜貴氏はラブドール写真家としても活動し、近年は「大日本ラブドール党」を結成。埼玉県八潮市の市議会議員選挙に出馬するなど話題に事欠かない人物となっているのだ。
その兵頭氏にスポットをあて、狂気の日々を完全ドキュメント映画化した『HYODO 八潮秘宝館ラブドール戦記』が9月2日より全国ロードショーを迎える。
今回は上映を記念したインタビューを兵頭氏に行い、ラブドールへの愛情、秘宝館誕生秘話などをたっぷりと聞いてきた! 映画『HYODO』のメガホンを取った福田光睦監督にも同席いただいたので、ぜひ愛と狂気の世界を覗き見してほしい!
――まず、兵頭さんと福田監督の出会いをお聞かせください。
兵頭喜貴(以下、兵頭):2007年のことです。
福田光睦(以下、福田):僕が雑誌編集者をしていた時に知り合いから「ラブドールを撮っている面白い写真家がいるよ」と紹介され、兵頭さんの個展に行ったのが最初の出会いです。
個展会場で兵頭さんの父親が持っていた裏ビデオをDVDに焼いて売っていたんですけど、「これをあげますよ」と言われて。変わった人だなとは思っていたんですけど、すぐに仕事を一緒にしようとは思いませんでした。行く先々で会う機会はあったんですけど、10年間位は放置していたんです。
しばらくすると、「脳の重病にかかった」「家を買ったので、そこを秘宝館にする」」と言うので気になり2019年にウェブ番組で初めて仕事をしました。兵頭さんの作品よりも生活や人間の変容に興味を持ち、取材をしたら面白い番組ができたので、その番組が今回の映画のもとになっているんです。
――秘宝館と言っても普通のご自宅ですよね?
兵頭:最近はだいぶ外観もイカれてきました。
――現在はコロナ禍ですが、コロナ禍以前は月にどのくらいの見学者がありましたか?
兵頭:コロナ禍前は年間約300人位は見学者が来ていました。前は自分でも信じられないくらい世界中から見学に来ていました。
――日本のラブドールは世界でも有名ですからね。近所からクレームはありませんか?
兵頭:本当はどう思われているのか分かりませんが、直接、クレームを言われたことはないです。
福田:本当になんてことない住宅地にありますから。
兵頭:前は小さい商店街だったんですが、いまは商店が潰れたのでほぼ住宅街です。
――そもそもデパートのマネキンに興味を持ったのがラブドール愛好家の原点だったんですか?
兵頭:好きでしたね。
――そのマネキンを見た時は性的興奮を覚えたんですか?
兵頭:そうでしょうね。当時はまだ射精も覚えていない子供でした。
――勃起はしましたか?
兵頭:勃起もしない頃でして、モヤモヤした感じを抱きました。
――それはフェティシズムの一種ですか?
兵頭:人形愛好家なんでしょうけど、あまりいないのでそこまで分野としては確立されていないんでしょうね。分母数が少ないでしょうから。
――いまは同好家のみなさんは周りにいますか?
兵頭:いまはいっぱいいますよ。
――子どもの頃はマネキンやラブドールを買えないので、そのモヤモヤをどうやって解消していましたか?
兵頭:セックスは人間としていましたから。
――確かに映画でも「モテる」とおっしゃっていました。
兵頭:車が好きな人は女性も好きじゃないですか。それと同じだと思います。
――ラブドールも好きだし、人間の女性も好きなんですね。
兵頭:ただ、僕の特徴の一つは「人形の扱いが薄情」だと言われるんです。
――それはどういうことですか?
兵頭:1体1体に対する愛着みたいなものをそんなに持たないんです。だから、そういう言い方をされるんですけど、確かにそうなんです。言われて何年かして気が付いたんですけど、人形だけじゃなくて人間の女性に対してもすごい薄情なんです(笑)。人形にも人間にもどっちにも薄情だなって気が付きました。
――薄情と言うのは相手に対しての照れですか?
兵頭:人間の女性に対してあまり執着しないんです。だから、ストーカー犯罪は理解できないんです。
――なるほど。ストーカーはずっと追っているから逆に言えば情が厚いとも言えますよね。現在、ラブドールを20体ほど所有しているのも薄情さと関係あるんですか?
兵頭:それは結果論として20体となったんです。1体、1体への執着は数が増えたことに薄くはなっていますが。
――1体購入して薄情になったら、もう1体購入するんですか?
兵頭:それが違っていて、ラブドールを最初買った時は三姉妹の話を作りたかったので3体までと決めていたんです。
――そこまでは愛着があって、そこからどんどん増えていったんですか?
兵頭:そうですね。その後、6体くらい買ってからは人形の方から転がり込んでくることの方が多かったです。
――誰かが持ってくるんですか?
兵頭:誰かがくれたりして転がり込んでくるんです。
――そして、多くなればなるほど愛着も薄れるんですか?
兵頭:そういう人間だからこそ、他の人のものも受け入れらるんじゃないですかね。誰かが使ったものに対しても抵抗がないから受け入れられるんじゃないですか。
――そうなると本当は愛情が深いですよね。
兵頭:もし自分の持っているものに対して、異常に執着している人は他の人のものを受け入れられないんじゃないかと思います。
――ラブドールを一番最初に購入したのはいつですか?
兵頭:2004年で30歳過ぎでした。
――その時は感動しましたか?
兵頭:感動もちょっとありましたけど、それよりも「えっ?」って感じでした?
――それはどういう感情ですか?
兵頭:最初に買ったのはソフトビニール製で手足に切れ目がばっちり入っているし、寝かしておくとただの死体のようなんです。だから、思ったほどキレイな姿じゃなかったから、残念な気持ちの方が強かった記憶があります。
シリコン製は2001年くらいからありますが、当時のメイクはいまに比べると稚拙です。当時はソフトビニール製が20万円でシリコン製は60数万円でしたので、とてもシリコン製は買えなかったです。
――そして、購入後はハメ撮りをしていますが、あれはどういう意味の行為ですか?
兵頭:マネキンの写真を撮っている時に友達から「メイキングの様子も撮っておいた方がいいんじゃないの」と言われて撮っていたんです。その後もラブドールを買った時に撮っていたので、その流れだけなんです。
――いわゆる「ハメ撮り」みたいな意味ではなく、ただのメイキングとして撮影しているんですか?
兵頭:自分でもあまり深くは考えていないんですよ。あと、ハメ撮りはやったことがあるんですけど、上手く撮れなかったんです。
――ビデオカメラがブレてしまうからですか?
兵頭:そうではなくてカメラを操作することに頭を使いつつ、人形とセックスをするのは無理でした。技術的に僕はできなかったんです。脳の容量が撮影に振り分けられなかったんです。
――だからビデオカメラを三脚に取り付けた「置き撮り」になるんですか?
兵頭:あの撮影方法が限界です。
――あのセックスシーンはのちのち誰かに見せたり、ご自身で見たりするんですか?
兵頭:個展をやった時に上映していたんです。
――その映像を初めて見たとき、福田さんはどう感じましたか?
福田:美術っぽいこともやっているんだなと思いました。でも、そこまでの衝撃は受けなかったかな。
兵頭:この人(福田監督)の基準は狂っているから(笑)。
福田:あの映像にはいい情報もあり、行為が終わったあと、人形の手をパタンと降ろすんです。人形にポーズをとらせていたのをまず直すんだって、いままでそんなことは考えたことがないのでリアルさが面白かったですし、人形が相手だと最初から最後まで一人だから孤独な感じが面白かったですね。一回服を着せてから脱がしたり、セッティングしたりするので間抜けですよね。
――でも、兵頭さんはその流れを楽しんでいるんですよね?
兵頭:楽しんでいる過程もあれば、しかたなくやっている過程もあるんです。
――しかたないというのはどういう感情ですか?
兵頭:やったあとの始末は楽しいと思ったことは一回もないです(笑)。
――それは人間とのセックスも似た感じがあります(笑)。でも、プレイ中は楽しいですか?
兵頭:プレイ中は心を「無」にしています。
福田:あはは(大爆笑)。
――夢中ではなく「無」ですか?
兵頭:ホールの感触は人間の性器よりも上なんです。そこだけに全集中しています。
――イクことにだけ集中していますか?
兵頭:そうですね。
――義務感が漂って大変ですね。
兵頭:大変です。でも、アソコは気持ちいいんです。下半身一点集中しているから手持ちカメラなんか回せなかったです。
――あと、ウエディングドレスを着せているドールがいましたけど、それは結婚式という意味ですか?
兵頭:新婚初夜で、ウエディングドレスは事前に買っておくんです。たぶん、儀式が好きなんですよ。冠婚葬祭が好きな冠婚葬祭フェチなんです。
――変な話ですけどドールが壊れたらお葬式も開くんですか?
兵頭:それも考えたんですけど、やれるところがないんです。なにがネックかと言えば火葬をしたかったんです。
――シリコンを焼くのは大変ですよ。
兵頭:焼こうとしたのはソフトビニール製ですけど、いまは木をいっぱいくべて人間サイズのものを燃やすことが許される場所がないんです。三女の葬式をやるのは購入前から構想していたんです。
次女とは結婚式で、三女はお葬式という構想があったんですけど、技術的にできていないんです。いまはコネクションもあるので本気になればできなくはないんですけど。昭和だったらできますけど、いまは怒られますからね。
――昭和の時代はゴミを河川敷で野焼きしていましたからね。ドールとは廃墟でセックスをしているシーンが多かったんですが、あれもなにか意味があるんですか?
兵頭:土地は別の人のものですけど、廃墟で撮影やセックスをやっていると自分のものかのような錯覚を抱くんです。それは世界所有欲の一部なんでしょうね。
――そういう場所でやっていたのがきっかけか分からないですけど、ドールを盗まれた顛末も映画では撮られています。盗まれた時は驚きましたか?
兵頭:腰を抜かしました。
――重いドールをよく盗みましたね。
兵頭:車で近づける場所に置いていたんです。
――誘拐ですね。詳しい内容は映画を見てのお楽しみですが、民事裁判で勝訴して裁判所前でドールと一緒に会見をしたシーンは面白かったです。写真家としての一面としては巨匠のヘルムート・ニュートンがお好きでパンフォーカス(背景までピントが合う手法)で撮影しているのが意外でしたが、パンフォーカスにこだわりがあるんですか?
兵頭:背景も全部入れたいんです。
――何度か撮影しているうちにパンフォーカスの技法に辿り着いたんですか?
兵頭:昔から広角レンズのパンフォーカス派でした。
――撮影のロケーションはどうやって探すんですか?
兵頭:最近は岩手県で撮っているんです。自由に使える酒蔵がありそこを基地にして、近くの河原や山に行って撮影しているんです。あと、去年と一昨年は四国や九州でも撮影しましたし、最近は千葉でも撮影しました。
――廃タクシーを使った写真がよかったです。
兵頭:あの写真は特によかったです。八丈島の廃墟ホテルなんですけど、車で入ってこられないようにわざと停めてあったんです。そのうちの一台です。あれは見つけた瞬間、「これはいい!」と思いましたし、タクシーというところがポイントです。
――田舎に行くと廃車はたくさんありますけどタクシーはないですね。
兵頭:あまりないです。八丈島はフェリーがないから車の処分が大変なんだと思います。だから、ああいうロケーションにタクシーがあたったんだと思います。さすがに最近は法律を守り、法律的に問題がないところでしか撮影しないです。
――以前はハプニングもありましたか?
兵頭:病院の廃墟があって、権利が飛んでいたので誰のものでもないんです。住宅地の真ん中にあって扉も開いていたので撮影していたら、中高生が入ってこようとするんです。そうしたら「コラッ~!」って言って追い返したこともあります。
――廃墟とドールは相性がいいんですか?
兵頭:いいと思います。
――それは廃墟もドールも無機質だからですか?
兵頭:それもありますけど、ドールも廃墟も時間をいっぱい蓄えているものだからなんです。ゆるやかに変化していくものだから親和性が高いです。写真も時間を蓄える装置ですよね。この三つの親和性が高いんです。
――なるほど。そう聞くと場所、被写体、機材ともに深い行為をしてるんですね。今回、福田さんが兵頭さんにスポットをあてましたが、映画ではどこを一番見てほしいですか?
福田:最近は自分のことを愛せる人って多くないと思うんです。SNSなどで叩かれることも多いから、「自分はこういうものが好きなんだ!」って声高に言えない時代じゃないですか。
しかし、兵頭さんはすごく自己肯定感が強くて、よくこんなに自分のことを愛せるなという姿を見て、この方が人間として自然なんじゃないかと思ったんです。
本来、人間は自己愛が強い人じゃないと生き残ってこられなかったんでしょうけど、現在は社会が人間らしさを失わせる方に機能しているので、兵頭さんほど楽しそうに自分を語り、モテると語り、すごいものを持っていると語る人はあまり見たことがなかったんです。
自分も表現をやっていますが、そういう自己愛のような部分はどちらかといえば隠していた。そんな時に兵頭さんを見て、「こんなに自分のことを楽しく語れていいな」と自分にないものを感じたので、それが気持ちよかったですね。
映画『HYODO』も兵頭さんっぽいところを過剰に残して作った映画なので、こんな人がいるんだってところからなにかを感じてくれたらといいかなと思います。
――その言葉を受けて兵頭さんから映画の見どころをお願いします。
兵頭:やっぱり一番心を揺り動かされるのは人形とやっているところだと思うんですけど、裁判の様子も後半はメインになるんじゃないですかね。裁判の光景を見たら勇気をもらえるんじゃないですか。
――ドールとのセックスも裁判も人間の業の深さを感じられます。ドールとは一生添い遂げますか?
兵頭:生きているうちは変わらないでしょうね。
――兵頭さんにとってドールの一番の魅力はなんですか?
兵頭:意思がないところが一番いいんじゃないですか。
福田:兵頭さんは一見、人形愛に見えるんですが、実は自己愛なんです。
兵頭:自己愛です。僕は異常に自分が大好きなんです。だから、人形は僕の一部なんです。他者じゃないから大好きなんです。
【兵頭喜貴】
八潮秘宝館館主・写真家。
昭和48年生まれ、愛媛県東宇和郡野村町出身。
東海大学工学部建築学科卒、日本大学大学院芸術学研究科修了。
2013年夏、腫瘍に圧迫され、脳下垂体を物理的に損壊。以後、脳の機能障害、心臓の発作で何度も死にかけるが、その度 に 生き残る。幼少の頃より、改造 人間や人工生命体好きだったことから、気付いてみれば自宅が秘宝館という人生を歩んでいる真っ最中。
(インタビュー・写真=KKフォトグラフ/Twitter@KKphotograph)