セックス体験談|ライブのあと、広島の夜、彼氏のいる女と…#3


 部屋はとても殺風景だった。ベットがひとつに、机と椅子がひとつづつ、壁は白いが明るくはない。昨日、真知子さんはラインで「寂しい」と言っていた。確かにここで一人で泊まるのは寂しいかもしれない。

 

「シャワー浴びる?」

「いいんですか?」

「うん。いいよ。私、少しお風呂長いから」

「わかりました」

 

 浴室に入り、シャワーで汗を流す。下を向くと、モノがだらんと垂れていた。ごめんな、朝に乱暴に2回ヌいてしまって。1回でいいから頼むぞ、とモノをボディソープで丁寧に洗う。

 浴室から出ると、「じゃあ入ってくるね。少し長くなると思う」と真知子さんが浴室に入った。僕は机の上に置いてあったまだ着られていないホテルのパジャマに着替え、ベッドの上で携帯をいじりながら真知子さんを待った。

 浴室からシャワーの音が聞こえる。小夏さんのことを思い出してラインを開いたが、やはりメッセージは来ていなかった。

 1時間くらいが経ち、真知子さんが浴室から出てきた。時間はもう深夜2時を過ぎていた。

 

「お待たせ。ごめんね、もうこんな時間」

「いえ。大丈夫です。真知子さんは明日朝早いですか?」

「明日は少しだけ遅いから大丈夫」

「なら良かったです」

 

 何が「良かった」なのか、真知子さんは聞いてこない。

 ドライヤーで髪を乾かす真知子さんをベッドの上で待つ。期待が膨らむと共に、昨日の後悔も頭をよぎる。

 

「ごめんね。待たせちゃって」

 

 すっぴんの真知子さんは化粧をしている時とそれほど変わらない。薄化粧なのだろう。少し頬にニキビが見えたが気にならない。仕事が忙しそうなのだから、ニキビのひとつやふたつあっても不思議じゃない。

 

「そしたら、電気消しましょうか」

 

 すっぴん姿をもっと見ていたかったが、最終目標はそこじゃない。真知子さんとベッドに一緒に入り、電気を消した。部屋が暗闇に包まれ、何も見えなくなる。だが、横からは微かな体温をしっかりと感じる。

 昨日は横に小夏さんがいた。今日は隣に真知子さんがいる。

 小夏さんが拒んだ僕の手を、真知子さんは受け入れてくれるのだろうか。

 ここのホテルに来る前、「まだ夢の中にいたいです」という僕の言葉を聞いた真知子さんは何かを察してくれたような表情をしていた。それを信じてもいいのだろうか。思い過ごしだったらどうしよう、という不安が生まれる。

 小夏さんに拒絶された時、ちゃんと悲しかった。もう誰にも拒絶されたくない。

 いま必要なのは、真知子さんに触れるほんの少しの勇気。

 横を向くと、真知子さんが上を向いて寝ていた。まるで眠り姫のようだった。

 眠り姫は王子様がキスをしたから目覚めた。キスをしたから、ふたりの関係は始まったのだ。

 ゆっくりと体を近づける。そして少し体を起こし、真知子さんの顔を覗き込む。

 真知子さんの目がゆっくりと開いた。そして、目が合った。

 キスがしたい。真知子さんに触れたい。

 顔を近づけようとしたその時、真知子さんが逃げるように体を向こう側に回転させた。

 昨日と全く同じ感情が胸に広がる。絶望と後悔。やはり、僕は王子様にはなれないのか。

 ベッドで一緒に寝ることはできるのに、キスはできない。どうせ拒むのならば、部屋に入れるところから拒んで欲しいと思う。ここまで手に入れられる状況まできて届かないのが、一番悔しい。そして、後悔も大きい。

 またか。そう思った時、ふと真知子さんのとった行動を思い出した。

 真知子さんは「お風呂が長くなる」と言っていた。事実、真知子さんの入浴時間は1時間もあった。なのに真知子さんは僕に「長くなるから先に寝てて」とはまったく言わなかった。浴室から出た時も「まだ起きてたんだ」ということはまったく言わなかった。

 つまり、真知子さんは僕と同じタイミングで寝るということを受け入れていたことになる。

 真知子さんが、ゆっくりとこちらを向いた。

 

「急に避けてごめんね。嫌だってわけじゃないの」

 

 目が閉じられている。

 

「隔たりくんのことが嫌ってわけじゃないの」

 

 そんな真知子さんの手が僕の胸に触れる。

 

「久しぶりなの…」

 

 そしてうっすらと目を開けた。

 

「だから恥ずかしくなっちゃって…」

 

 申し訳なさそうな表情でこちらを見る。

 

「心臓がドキドキしちゃって…」

 

 でも、その潤んだ瞳は。

 

「だから…」

 

 僕を求めているように見えた。

 

「本当はすごく嬉しいの」

「それはつまり…」

 

 胸に当たっている真知子さんの手に、自分の手を重ねた。

 

「いい、ってこと?」

 

 コクリと真知子さんが頷く。

 

「じゃあ、するよ?」

 

 ちょっと待って、と真知子さんが一度目をつぶった。そして大きく息を吸って、吐く。

 

「ごめん。もう大丈夫」

「わかった」

 

 顔を近づける。頬が赤く見える。それはニキビのせいなのか、それとも恥ずかしいせいなのか。

 そんなことはもう、どうだっていい。だってここは現実ではないから。

 唇の先に、真知子さんの体温が触れる。唇は震えていて、可愛い、と思った。

 

「真知子さん」

 

 めくったページがふわりと次のページに重なるように、優しく唇を重ねた。真知子さんの唇はそれでも震えている。その震えを解くように、何度も何度も唇を重ねた。

「真知子さん、大丈夫?」

「うん…でも、すごくドキドキする」

「俺もドキドキしてる」

「本当?」

「うん。だって真知子さんとキスできるの、すごく嬉しいから」

 

 真知子さんが嬉しそうに笑った。女性の笑顔は、どんな時だって美しい。

 

「今度はさ、真知子さんからキスしてほしい」

「え、私から?」

「うん。ほら」

 

 目をつぶって唇を差し出した。少しだけ間が空いて、真知子さんの唇が重なった。

 真知子さんは口を閉ざしながら、唇を押し付けてくる。そのぎこちなさが愛おしい。

 舌を出して、真知子さんの唇を舐める。すると、真知子さんも同じように唇を舐めてくれた。

 出された舌と舌がぶつかった。まるで、同じ本を取ろうとして互いの手が触れた、運命の出会いを象徴するシーンのように。ざらりとしているのに、柔らかくて温かくて愛おしい舌。ゆっくり絡まると、全身の筋肉がほどけていくように、体が軽くなっていく。

 ゆっくりと、何度も何度もキスを味わい合った。真知子さんの口からは大人の女性特有の温かみのある味がした。刺激的なキスというよりも、安心感に包まれるような優しいキスだった。

 

「恥ずかしい…」

 

 唇を離すと、真知子さんが呟いた。その姿が可愛らしくて、もっと攻めたくなる。

 

「もっと恥ずかしいこと、してもいい?」

 

 答えを聞く前に、服を脱がしていく。下着があらわになると、その上に手を置き、優しく撫でた。

 

「真知子さん、キスしましょう」

 

 すぐに唇が重なり合う。真知子さんは緊張が解けたみたいで、キスの動きが滑らかになっていた。

 手で真知子さんの体を丁寧に愛撫していく。首、鎖骨、腕、お腹、足。真知子さんの肌はとてもスベスベだった。下着をずらし、乳房を撫でる。真知子さんの口から、吐息が漏れる。

 

「あぁん…あ…うぅ…ぁあん」

 

 下着の中に手を滑り込ませ、アソコに触れる。

 

「いや…あん! ううん…あん!」

 

 クリトリスに触れた瞬間、豹変したように真知子さんが叫んだ。胸が上下し、呼吸も激しくなる。

 

「だ、だめ! やめて!」

 

 真知子さんが両手で僕の腕を抑えた。やはり、久しぶりにイくのは怖いことなのかもしれない。

 そんな叫びを塞ぐようにキスをした。すると、真知子さんの舌が激しく絡んできた。ベロベロ、という擬音がふさわしいような動きだ。あんなに恥ずかしがっていた真知子さんから性欲が溢れ出ている。

 真知子さんの手が股間に触れた。そして大きくなっていたそれを、手でこすってくれる。

 

「隔たりくんは気持ち良くならないの?」

「どういう意味ですか?」

 

 意地悪に聞いてみたが、真知子さんは真剣な口調で返す。

 

「私だけ気持ち良くなるのは申し訳ない」

 

 真面目な人なのだろう、と思った。もしかしたら、遊んだ経験もそんなにないのかもしれない。だとしたら、初めて会った男とその日にホテルに行くのも初めてなのだろう。

 

「だから、舐めてみてもいい?」

「うん。お願い」

 

 寝転がって、足を開いた。その間に、真知子さんが四つん這いで入る。

 真知子さんは小動物がご飯を食べる時のように、小さく舌をペロリと出してモノを舐めた。慣れていないような、ぎこちないような動きが可愛らしい。

 そしてモノの先端をパクリと咥えた。

 

「んっ…んっ…」

 

 広島でのライブが当選して、マッチングアプリで広島住みの女性を検索した。そこで繋がったのが真知子さんだった。

 

「どう舐めたら気持ちいい?」

 

 僕が広島に行った昨日、真知子さんは出張で東京に来ていた。入れ違いだった。だからもう、会えないのだろうと思っていた。

 

「どこが気持ちいい?」

 

 だが今、僕は真知子さんにフェラをしてもらっている。広島住みの真知子さんに東京でフェラをしてもらっている。

 

「舐めるのって難しいな…」

 

 上体を起こし、真知子さんの頭を撫でた。

 

「真知子さん。めっちゃ気持ちいいですよ」

「ほんと?」

「はい」

「よかった」

「真知子さん」

「はい」

「一緒に気持ち良くなりましょう」

 

 真知子さんをゆっくり押し倒し、ベッドに寝かせた。そして、真知子さんがシャワーを浴びている時にこっそり枕元に用意していたコンドームをはめて、足の間に入る。

 

「久しぶりだから入るかな…」

「痛かったら言ってくださいね」

「うん」

 

 モノをアソコに当てる。

 

「いきますよ」

「うん」

 

 先端が少しづつ熱に包まれていく。

 

「真知子さん」

「隔たりくん」

 

 照明が消え、唐突にスクリーンに映像が映し出される。少しずつ歓声が大きくなり、音楽が鳴る。歌声が体の中に入り、体が熱くなる。体全身を使って、会場の熱狂に混ざっていく。

 そんな昨日のライブがまだ続いている。そして、昨日からずっと続いていた夢のような時間の終着点は、ここにあった。

 これから真知子さんとの二人きりのライブが始まる。この現実を忘れさせてくれる、熱い熱いライブが。

(文=隔たり)

※隔たり連載が朗読動画化! 大人の朗読劇『女と男の隔たり/恋の摂理と愛の行方』というYouTubeチャンネルができましたので、気になる方はぜひチェックしてみてください。

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