「ど、どういう意味ですか?」
「あのコンドームはね、おととい使ったやつよ。そういうことが知りたかったんでしょ?」
おととい、つまり僕がこの家に来た前の日に、都さんはこの家で他の男とセックスをしたという。さらに、その前の日もセックスをしたという。
「だから、ふたつあったんですね」
「あら。そこまでゴミ箱の中を見られてたのね」
「すみません…。あの、それは二日連続で同じ人としたということですか?」
それを聞いてどうなるのか。わかっているのに、僕は気になって聞いてしまう。
「ええ」
都さんは当たり前だというようにそう言った。つまり、都さんは3日連続で自分の家に別の男を連れ込んでいたということになる。
「男の人って、面白いわよね」
「え、面白い?」
「ええ。面白いわよ。みんなセックスしたがってる」
都さんが一歩、僕に近づいた。手を伸ばせば簡単に触れることのできる距離になった。僕はパジャマ越しの、昨日触れた柔らかな胸に目がいってしまう。
「あなたは、私の顔を可愛いと思う?」
視線を上げると、都さんと目が合った。心臓が掴まれたような、何もかも見透かされているような感覚がした。
「可愛いというよりも…キレイな顔だと思います」
「お上手ね」
都さんは「ふふ」と笑った。
「私は自分がそこまで可愛くないとわかっているわ。でも、そんな私を男たちは抱くのよ。可愛くもない私を。わざわざこんなに遠い場所に来てまで。そんなにセックスがしたいんだって、おかしくなるわ」
都さんは舌で唇をペロリと舐めた。
「男たちはこう思うのでしょうね。この女を抱いた、俺がこの女を抱いたって。笑っちゃうわ。それは勘違いなのに」
「え、どういうことですか?」
「俺が抱いたんじゃないの。私が抱かせてあげたのよ。私も性欲を処理したいからちょうどいいの。つまり私の性欲処理のために、男たちは好きでもないしぜんぜん可愛くもない私を抱くのよ」
都さんは楽しそうに「ふふ」ともう一度笑った。こんなに楽しそうな表情を見るのは初めてだった。
「そして面白いことに、男たちはそんな私に執着し始めるの。もう一度抱かせてくれって。付き合ってくれって。笑っちゃうわ」
確かに、僕は都さんに魅了されていた。可愛くないと思いながらも、それ以上に魅力を感じてしまっていた。もし、僕も都さんとセックスをしていたら。都さんの言う「男たち」のように執着してしまうのかもしれない。
「じゃあ、僕も…」
「ええ、そうね。連絡をしている時点では、ああこの子は私とヤりたいんだなぁ、と思ったわよ」
でも、僕は自分の意志で都さんの家に来たはずだ。たとえ都さんが抱かせてあげようとしてたと思っていても、僕は自分の意志で来たはずだった。
そう言うと、都さんは「確かにそうね」と笑った。
「確かにあなたは自分の意志で私の家に来たのかもしれない。つまりあなたが言いたいのは、自分の誘い方が良かったから私がオッケーした、ということでしょ?」
都さんに気圧され、僕はゴクリと唾を飲んだ。
「でも、なぜその逆を考えないの? 自分の誘い方が良かったのではなくて、私のメッセージによって自分がそういう言葉を引き出されたという可能性をなぜ考えないの?」
「え」
「私はあなたになんてメッセージをしたか覚えている? 『会いませんか?』というあなたの誘いに対し、私は『あまり外に出ないのよ』と謝ったわよね? そしたらあなたはなんて言った? 『僕がそっちまで行きますよ』みたいなことを言ったわよね?」
都さんの言っていることを理解し始めていて、僕は言葉が出てこなかった。
「『外に出ない』というと、たいていの男たちは『家に行く』『家の近くまで行く』と言うのよ。あなたみたいに」
都さんから「あまり外に出ない」と返信が来たと思ったとき、僕はここがチャンスだと思った。そのチャンスを逃さなかったから、僕は都さんの家に上がれたと自分を褒めていた。誘うタイミングが良かったから、都さんも心を開いてくれたのだと思っていたけど…。