――ところで最初の映画出演はなんでしたか?
川上:2015年の森川圭監督の『メイクルーム』です。『メイクルーム』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭でグランプリを獲った会場で、内田英治監督が私のことを見つけてくれたんです。私の授賞式での話し方と作品で演じたていたイメージが全く違っていたみたいで。
それに対して面白がってくれて、内田監督作品の『下衆の愛』から出演のオファーをいただきました。そこから内田監督の作品に連続で呼んでもらったんです。私の負けず嫌いな性格をすごく分かっていたので、「それつまらない」、「エロくない」ってハッキリと言うんです。
でも、そっけない感じなんですけど、舞台挨拶では「お芝居が上手」、「才能がある」、「すごく期待している」、「いろんな監督たちが川上奈々美をかっているんだ」って言ってくれるから、この人についていきたいなって思ったんです。
でも、そう思っていると内田監督は「内田組は卒業だから」って言うんです。そうしたら『全裸監督』に私を起用してくれて、大変な演出を内田監督からはありがたくいただきました。私は負荷をかけられれば、かけられるほど光るので「この野郎!」と思って頑張りました。そこから他にもいろんな映画作品に呼ばれるようになったんです。
――そもそも演技はどこで学んだんですか?
川上:AVの3作目がドラマ作品だったんですけど、そこで初めてセリフをしゃべっている自分を観たら、すごい大根役者だと思って恥ずかしくなったんです。それで、どうしたら芝居が上手くなるのか考えたら舞台だと思ったんです。
舞台に出れば360度観られているから、いやでも上手くなれると思いオーディションを受けて、受かったので舞台に出るようになったんです。これは自慢といいますか、他の役者さんと同じステージに立ったときに、「私は背負っているものがなにか違うのかな?」って思ったんです。
――そこで感じましたか?
川上:なんか目立てているぞって思ったんです。
――それは分かる気がします。
川上:評価がいっぱいかえってきて、演出家さんも「うちでは奈々美ちゃんはもったいないから、他で頑張ってほしい」という言葉をもらって、「なにか私は違うものを持っているのかな?」って思い、そこから映画に出て内田監督に会って評価していただいたんです。東京国際映画祭のレッドカーペットもいちばん目立つ場所を歩かせてもらったんです。チョイ役なのに(笑)。
でも、内田監督も現役のAV女優をレッドカーペットで歩かせた興奮感を感じていたみたいです。そこからすごく華やかなイタリアの映画祭にも連れて行ってもらいました。役者のご褒美は映画祭なので、それを体感したり、みんなで1本の映画を作っている喜びも感じたりしました。
――そういう壮大な流れが今回のAV引退に繋がったんですね。AV引退は1年後ですか?
川上:AVは2022年の1月の撮影作品で終わり、ストリップは2022年の2月でストリップの引退興行をします。アダルト業界引退の日時は正確に決まっていないんですが、いまから約1年後です。
――それまでの1年間はどういう活動をしますか?
川上:ストリップで脱ぎ納めツアーを5月からやります。5月に川崎ロック座、8月に浅草ロック座、10月に東洋ショー劇場、来年2月の浅草ロック座がラストです。
――その後は俳優業に専念するんですか?
川上:そうです。映像中心にやっていきたいです。
――やりたい役はありますか?
川上:挑戦してくれる監督さんが大好きなんです。この世のものじゃない役でも構いません、私を面白がってキャスティングしてくれればいいパフォーマンスを演じます。
――ピンク映画にはAV引退後も出ますか?
川上:もちろん出たいです。面白い作品を作りたいっていう人たちとやりたいです。
――美談にしたくないですけど、不本意な形でAVデビューした川上さんがここまでのスターになるってすごくないですか?
川上:美談にしてくださいよ(笑)。
――不思議な人生ですよね。自分でこの展開をどう思っていますか?
川上:自分のなかでは意地しかなかったです。
――私もデビュー直後にインタビューで会ったけど、やはり輝きが違いましたから。
川上:そうですか?(笑)。
――10年前にインタビューで会ったAV女優の9割はいなくなりましたから。
川上:近くにこじみな(小島みなみ)とか、まな(紗倉まな)ちゃんがいたから、「負けたくない!」っていう気持ちでやってきました。私はライバル心を持っていましたから。
――それはいい話です。2人もそういう情熱をひしひしと感じたと思いますよ。これはガチンコ話ができる川上さんだからこそ聞ける話ですが、AV女優になり失ったものはありますか?
川上:失ったものは、普通の幸せ(笑)。結婚と子どもは諦めたんです。諦めなくてもいいんですけど、いままでがあったから覚悟を決めて今後も頑張っていきたいというか。普通って言い方はあんまりよくないかな、普通に生きられなくなっちゃったんです。肉体を酷使する仕事でもあるし。
――逆に得たこともたくさんあると思いますが?
川上:みんなが味わえないものをたくさん見させてもらいました。いままでの喜びや怒りや復讐心は財産だと思っているので、それを出せるのは芝居しかないから、本当に俳優にならないといけないんです。そうしないと救われないです。
――いいことも悪いことも含め川上さんにとってAV女優とはなんですか?
川上:私を大きくさせてくれた存在です。
――入り口は不本意だけど、出口はよかった?
川上:めちゃめちゃよかったですよ。
――AV女優・川上奈々美があったからこそ、今後の俳優・川上奈々美に繋がるんですね。
川上:そうです。こんなに素晴らしい世界を見せてもらったんですから。感動しています。
――そうするとAV女優の道は必然だったと?
川上:自分で必然にしました。自分で舵を切りました。
――素晴らしい言葉です。では、まだまだ聞き足りないことばかりですが、時間がきたので引退表明をした川上奈々美からファンへメッセージをお願いします。
川上:感謝しています。
――それしかないですか。
川上:感謝しかないです。みんなが私に期待をしてくれたことで、私は生かされているので。周りから期待の言葉がなくなったら私はいなくなります。期待と応援の言葉を糧と自信にして、もっと広い世界を飛び回っていやろうと思います! 楽しい景色をもっとみんなに見せたいです。そんなわがまま俳優をこれからもよろしくお願いします!
(写真・インタビュー=神楽坂文人)
■インタビュー協力=マインズ(公式Twitterはコチラ)