「美少女」を謳った一人のAV女優がデビューしたのは2012年。彼女はその後、AVのみならず映画、歌、バラエティと世間を相手に必死で戦い、現在の地位を作ったのだ。
絶えず世間と戦い、ときには不本意な負けを喫し、ときには予想以上のご褒美をもらい走り続けた熱い9年間であった。9年間、自問自答を繰り返し続けたその女優・川上奈々美がついにツイッターでアダルト界からの引退を発表。来年から本格的に映像の世界を中心に俳優業に専念するというのだ。
今回は彼女が戦い続けた9年間の歴史を振り返るとともに、引退までの活動予定、さらには俳優業へ専念する決意などを聞いてきた。
「AV界の対抗戦女」がこれから世間に向かって、どんな挑戦状を叩きつけるのか楽しみだ。
【川上奈々美(かわかみ・ななみ)】
生年月日:1992年10月14日
身長:160cm
スリーサイズ:B79・W57・H80
血液型:AB型
好きな食べ物:牛タン
好きな場所:お花屋さん
公式ツイッター(@nanamikawakami)
公式インスタグラム(@nanamikawakami)
公式HP(https://kawakaminanami.com/)
川上奈々美、AV引退決意の本音
――いつからAV引退は意識していましたか?
川上奈々美(以下、川上):去年の年末です。今年の1月に実は大きく記者会見で発表しようと思っていたんですけど、コロナ禍だったので頭を抱えました。
――引退と聞いてファンが悲しむといけないので、来年1月にAV引退作を撮影しAV女優をその数か月後には卒業するけど、俳優として芸能の仕事は続けるんですよね?
川上:そうです。AV女優とストリッパーは来年引退して、次のステージに行くんです。
――次の俳優業でも役柄として裸になるかもしれないけど、アダルト系の仕事は引退ということですか?
川上:そうです。
――今後も会える機会はあるんですか?
川上:もちろんです。今回、AV女優引退と個人事務所設立を関係者の方にお知らせしたら、「奈々美ちゃんのAVが観られなくなるのは寂しい。買い占めるよ」って言ってくださった方もいて、嬉しいやら、寂しいやらの感覚でビックリしました。
――こちらも一報をマネージャーから聞いたときにはビックリしました。いまは引退後、出演したAVの販売も取り下げることもできますが、そういうことはありますか?
川上:AVは残します! 私はAVがあったから俳優になれたと思っているし、ちゃんとけじめをつけて俳優業にいきます。AVの過去は消さないし、逆に武器にします。
――それは素晴らしい決意です。川上さんはずっとメーカー専属の単体女優で活躍してきましたが、9年間もそれをやれているAV女優ってなかなかいないですよね。
川上:恵比寿マスカッツのおかげです。
――メーカー専属女優ってなろうと思ってもなれないじゃないですか。デビュー時にここまでやれると思っていましたか?
川上:意地でやってきました。本音を言えば引退直前に企画単体女優になりたかったんです。
――それは意外です。どうしてですか?
川上:もっといろんなメーカーさんと仕事がしたかったし、もっといろんなメーカーさんの撮影現場を見たかったんです。私がAVやストリップの世界にいたのも、とことん真実を見たかったんです。他のメーカーさんに行けば、きっと新しいものも生まれるし、他の女優さんと共演もできるし、ぶっちゃけいろんなプレイの解禁もしたかったんです。
知らない世界を知りたかったんです。知りたかったんですけど、やっぱり欲深すぎるのも上手くいかないんだなと思ったんです。私のいちばんやりたいことは俳優業だから、そこを目的として考えると、幅広い活動をセーブするしかないのかなって思ったんです。
――あまりハードなことをすると、今後の活動に影響が出ますからね。
川上:そこは関係ないんです。
――さすがです。
川上:そこは一切関係ないんです。日本の芸能界はAV女優出身だとハードルが高いかもしれないですけど、私は関係ないと思っているんです。最初、私のホームページにはAVとストリップのことは書いていなかったんですけど、ある関係者と話していたら「それは武器になるから、隠しちゃダメだよ」って言われたんです。マドンナ(米の歌手)もヌードモデルをしていたり、海外の有名なダンサーも元ポルノアクトレスだったりしたから、意外と元AV女優も需要があるかと思ったんです。
――日本でもピンク映画出身の俳優は多いですからね。
川上:そう、だから武器にしていきたいと思ったんです。
――そういう意味ではもちろんAVは誇りですか?
川上:そうです。
――AVで転機になった作品はありますか?
川上:カンパニー松尾さんに出会ったことじゃないですかね。デビューして3、4年だったかな? 会って救われたんです。私は照れ屋でひねくれているから、あまり表には出さないんですけど、実はすごく“かまってちゃん”なので、それを汲んでくれて引き出そうとしてくれたんです。
私はAV女優っぽくないし、おっぱいもないから容姿にすごくコンプレックスがあったんです。それでも松尾さんは私のことをすごく見て「スケベだ! スケベだ!」って本当に興奮してくれたんです。あと、松尾さんに言われて嬉しかったのは、2回目の撮影で沖縄に行ったときに「紗倉まなと川上奈々美はフェラーリなんだよ。最高の乗り物なんだよ」って言われたんです。
――軽自動車じゃないと(笑)。
川上:フェラーリって言われたんですよ(笑)。分かる人には分かるんだなって思って、その期待を信じて、これまでやってきました。
――その言葉からエロに対して真摯になりましたか?
川上:そう! 本当にそうかも。2015年で私は引退しようかと思っていたんです。
――前にも言っていました。
川上:あのタイミングでトリプル専属(アリスJAPAN・アタッカーズ・アイデアポケット)になったんですけど、下半身の皮膚があまり強くないので、すごく負担だったんです。だから、体と精神が追い付いていけなくて、トリプル専属になってやっていけなくなったっんです。でも、鈍感力を身につけて、180度考え方を変えました。
――以前、「撮影ではエッチを楽しんでいなかった」って言っていましたが、その時期から考えが変わったんですか?
川上:セックスや裸になることが小さいころから「よくないもの」、「フタをするもの」って育てられた家庭だから苦しかったんです。親から縁を切られたんですけど、それでもAVはやったんです。でも、そんな楽しくない状況でやっていたら自分の体が壊れると思って、麻痺と言ったら怖いけど、鈍感力を無理矢理付けました。
――その鈍感さがいい方向に行きましたか?
川上:いい方向に行きました。いい方向に行って全ての感覚が気持ちいいに変換できるようになったんです。
――仕事もプライベートもですか?
川上:そうです。ちょっと苦手な男優さんでも気持ちいいし、アソコは開いていったし、受け入れたんです。『アタッカーズ』の作品がレイプ作品だから分かりやすいかもしれないです。結構、ハードなレイプ作品じゃないですか、だからお芝居として体も精神も全部否定的になっていたんです。そうしたらアソコがキュっとなって、一切入る余地がありませんって感じになっちゃったんです。
でも、「これじゃいかんぞ!」って思い、動作では「やめて! やめて!」ってやっているけど、内心は「早く来い! 早く入れてくれ!」っていう感じでやるようになったんです。それをやっている自分が楽しくなって、ハイになってきたんです(笑)。
ベテラン男優さんからも「いち早く辞めそうな女優だったよね」って言われたので、本当にAVに向ていない女優だったんです。AV女優として向いていない状態で10年やってきたので、意地でしかないです。だからこそ、次は私が向いているであろう俳優の仕事をやりたいと思ったんです。
――あとAV女優としての川上奈々美の実力を見せつけたのが朝霧浄監督の『彼女が3日間家族旅行で家を空けるというので、彼女の友達と3日間ハメまくった記録(仮) 川上奈々美』だと思うんですけど、あの作品はターニングポイントじゃないですか?
川上:やっとバカ売れした作品が出せました(笑)。爆発的に売れて伝説を残せた作品ですね。
――元々、評価が高い女優でしたが、さらに評価が上がりました。
川上:どう感じていたかな? かっこつけたくないな(笑)。どう思っていたんだろう。ムーブメントを作ったというよりは、同業の女優さんたちからの評価が高かったことがなによりも嬉しかったです。実際に会う女優さんやツイッターやインタビューでも、その作品を見たって言ってくれるので、すごく話したくなりました!
――誉めてくれた女優とですか?
川上:そう。あの作品を誉めてくれた女優さんは、自分のありのままやリアルさを出したい方だと思うんです。だから、一緒に作品を作りたいって思ったんです。
――共演したい女優は誰ですか?
川上:あおいれなちゃんと、いろんなことを吸収したいのは波多野結衣ちゃんと大槻ひびきちゃんです。本人たちにも「私がキカタン(企画単体)女優になったら共演したい」って言ったんです。いまでもなんとか共演できないかメーカーには言っています。
――その3人は同志って感じですか?
川上:波多野結衣ちゃんと大槻ひびきちゃんは大先輩なんですけどそうですね。れなぱん(あおいれな)は、なんとなく求めてくれているような感覚があるんです。あと、小倉由菜ちゃんも好きです。
――小倉由菜ちゃんも憑依作品で大ブレイクしましたからね。
川上:そうか! おぐゆな(小倉由菜)はお芝居上手だからね。れなぱん(あおいれな)とおぐゆな(小倉由菜)にはなにか残したいって思っているんです。2人ともすごく話しかけてくれるし、連絡もくれるし、食事にも何度か行ったことがあるし、どこかのタイミングで話をしたいです。
――仕事の話ですね。
川上:そう。そういう話を女優さんともっとしたかったんです。れなぱん(あおいれな)やおぐゆな(小倉由菜)みたいに上昇志向がある女優さんたちと仕事の話がしたいです。現状に飽きている部分もあるだろうし、これからどうしたらいいかという不安もあるだろうし。
――それをちゃんと言語化できて伝えられるのは川上さんしかいないです。
川上:私自身、AVには向いていない女優なので、向いていないと思う女優さんは神経質でいろんなことを考えちゃうんです。だからこそ、その不安や発見を違うところで活かせる存在だと思うんです。
上昇志向があるのに、くすぶっていると思っている女優さんは、どこかで発散できる状況を探してほしいです。この業界でも他の業界でも視野が狭くなり苦しくなることがあると思うので、選択肢をいっぱい探してほしいです。
第二の人生で一般人になろうとしてもリスクや不安はあるし、結婚もできなかったり、親戚の人にもなにかを言われたりするので。
でも、そんなときもいままでやってきたことは「絶対に無駄じゃないよ」って言いたいし、選択肢をたくさん増やして、これからの人生を楽しんでほしいです。この世界に入ってきたことにも意味はあるから。
――深いですね。確かに向いていなくても売れる子はいるし、向いていても売れない子はいますからね。
川上:向いていなくても私は負けず嫌いだし、意地で10年きたので、それでも売れるんです(笑)。
――そういう意味で私は川上さんのことを「対抗戦女優」って勝手に言っているんですが、これは世間に対しての対抗戦で、川上さんはAV女優としてはもしかしたらナンバーワンではないかもしれません。
でも、一般の映画祭やメディアに出ると最も輝く女優なんです。世間に対する言語を持っているAV女優は川上さんしかいないんです。それを感じたのが2018年の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」でのスピーチなんです。
川上:なにを言いましたっけ?
――あのときは映画にうるさい人たちを前に堂々とした受け答えをしてスカッとしました。
川上:ああ、あのときもいろいろくすぶりながら話していました。
――川上奈々美という存在はAVに収まらず、世間に出ていかなければならない存在だと誰もが思っていたんです。
川上:誰もが思ってたんですかね(笑)?
――はい。それがいまのタイミングなのかなと思います。
川上:完全に覚悟が決まりました。