セックス体験談|恋人がいる寂しさ#5「満たされない夜」

隔たりセックスコラム:恋人がいる寂しさ#5「満たされない夜」

隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。


「恋人がいる寂しさ#1#2#3#4

 いいよ、という言葉を合図に、浴室の扉を開ける。中に入ると、視線がすぐにうなじを捉えた。詩織は湯船つかないようにと、髪の毛をアップにしていた。

 細く伸びた首筋を眺めながら、お風呂用の小さな椅子に座る。横顔を眺めると、詩織が恥ずかしそうにこちらを振り向いた。

 

「なに~?」

「いや、裸だなあ、と思って」

「恥ずかしい」

 

 詩織は腕を前で組み、胸を隠していた。湯船の中は泡でいっぱいで、水の中にある下半身は見えない。

 

「俺も恥ずかしい」

 

 詩織の言い方を真似して、僕は腕で胸を隠した。

 

「真似しないでよ」

「真似じゃないよ」

「いやだって胸隠してるじゃん」

「恥ずかしいもん」

「そうなの? 普通、隠すのは下じゃないの?」

「下はもう、詩織に見られてるから」

 

 確かに、と詩織が笑う。僕は早く一緒に湯船に浸かりたいと、シャワーで汗を流した。

 

 シャワーを止め、ボディソープを手に取る。こすってしっかりと泡立たせて、モノを丁寧に洗っていく。セックスはできないと諦めていたが、たくさんしゃぶってもらえるかもしれない、という希望が、まだあった。

 洗っていると、モノは徐々に大きくなった。そういえば、詩織は今まで洗われていないモノをしゃぶってくれていたと気付き、申し訳ないという気持ちが胸に広がっていく。

 股間についた泡を全て洗い流し、シャワーを止める。

 

「じゃあ、入るね」

 

 右足を入れると、湯船の中から泡とお湯があふれ出した。大量のお湯が床に落ち、鈍い音を響かせる。僕は片足を入れたまま、お湯があふれ切るのを待った。ふと詩織を見ると、彼女の視線は僕の下半身に向いていた。

 僕はとっさに股間を隠す。はっとした詩織は、恥ずかしそうな笑顔で僕を見上げた。

 

「見られた」

「見てないし」

「恥ずかしい」

「…だって、目の前にあるから」

「ごめんごめん」

 

 左足も湯船に入れると、再び泡とお湯があふれ出した。布団のように覆いかぶさっていた泡が消え、お湯の中にある詩織の体があらわになった。詩織は繭のように、自分の体を抱いている。足がクロスされていて、下半身の大事な部分は見えない。だが、腕の上からは柔らかな膨らみがこっそりと顔を出していた。

 

「あ、動いた」

 

 詩織の体に反応して大きくなったモノを見て、詩織はそう呟いた。

 

「胸が見えたからね」

 

 恥ずかしい、と詩織はさらに体を縮こませる。

 

「でもすごい。これがもっと大きくなるの?」

「そっか。詩織は勃った状態のしか見てないんだっけ」

 

 うん、と詩織が頷く。

 

「そしたら、大きくなっていくとこみたい?」

 

 僕が意地悪に尋ねると、「えー」と詩織は言ったが、満更でもなさそうだったので、僕は「触って」と胸を抑えていた彼女の腕をほどいて手を取り、モノを持たせた。

 腕が外れた時、一瞬ではあるが乳首が顔を出した。触りたい、しゃぶりたい。そう思うと同時に詩織の手がモノに触れ、また再び大きくなる。

 

「また大きくなった」

「触ってくれたからね」

 

 乳首が見えたから、とは言わない。

 

「どうやったら大きくなるの?」

「そのまま触ってくれるか…」

 

 僕は湯船の中で立っていた。そして、詩織は湯船の中に座っている。僕の目線と詩織の目線をつなぐと、ちょうどその線の上にモノがあった。詩織がこちらを見上げると、もうすでに舐められているような景色になる。だから、舐めてほしいと思わずにはいられない。

 

「舐めてほしいな」

 

 そう言うと、詩織は再び「えー」と言った。言ったのだが、その声には好奇が満ち溢れていて、やはり満更でもなさそうだった。詩織は自分のアソコを触らせることは拒むが、僕のモノをしゃぶることにはもう抵抗がないようだった。詩織は手で何度かモノを擦ったあと、すぐにパクっと咥えた。まだモノは完全に大きくなっていなかったので、咥えるというよりも吸うに近かった。

セックス体験談|恋人がいる寂しさ#5「満たされない夜」の画像1
※イメージ画像:Getty Imagesより

 詩織の口の中でだんだんモノが大きくなっていく。

 

「んんん」

 

 詩織は咥えながら声を出す。おそらく、「大きくなってる」と言ったのだろう。詩織が顔を前後に揺らすたびに、モノはどんどんと大きくなり、硬くなった。

 

「すごい。さっきと全然違う」

 

 詩織は口を離し、モノを手でしごく。その表情はどこか嬉しそうだった。詩織はもう、僕のモノを舐めることに全く抵抗がないようだ。

 

「そしたら、手を外して、口だけでしてくれない?」

 

 抵抗がなさそうだから、こうやってお願いができる。詩織は「うん」とモノをつかんでいた手を離し、口で咥えた。そして手を浴槽のふちに置いて体を支えながら、顔だけを動かしてモノをしゃぶる。

 詩織が動くたび、ジャブジャブとお湯の波打つ音が鳴った。両手をお風呂のふちに置いているので、詩織の胸はもう隠されていない。お湯が揺れるとお湯を覆っている泡も動き、湯船の中があらわになる。

 視界に可愛らしく膨らんだ詩織の胸が目に入った。詩織の胸を直接見るのは初めてだった。「舐めたい」「触りたい」という衝動が身体中を駆け巡るとともに、血液がモノに流れ込み、破裂しそうなほどパンパンに膨らんだ。

 

「んんんんん」

 

 詩織の声が亀頭に響く。竿に唾液がまとわりつく。暖かな体温に包まれる。「気持ち良い」という感覚だけがそこにはあった。このモノを詩織のアソコに入れたいという、普通ならば湧き上がるであろう邪念は一切なく、ただ詩織にしゃぶられているという事実だけで気持ち良かった。

 

「詩織、やばい」

 

 もはや愛おしさがこみ上げてくる。彼氏のいる詩織は、こんなにも、僕という存在に奉仕してくれている。仕事も上手くいかない、彼女とも上手くいかない。そんな自信の全くない僕のモノをしゃぶってくれている。優しい。詩織を抱きしめたい。

 

「詩織」

 

 僕は詩織にモノから口を離させた。そして僕はしゃがみ、詩織の顔を両手で包み、キスをした。湯船に入った反動で、お湯がまたあふれ出る。浴室に響き渡るその音に包まれながらも、二人しかいないという静けさの中で、僕は詩織と舌を絡ませ合った。

 詩織が抱きついてくる。僕も顔から手を離し、抱きしめ返す。詩織のむき出しになった体が僕の体に重なり、暖かな体温を感じた。

 柔らかな胸が、僕の胸に当たる。興奮よりも、詩織は僕を人間として受け入れてくれている、という安心感が優った。それだけで十分だった。

 

 後ろからギュウしてほしい、と詩織が言ったので、僕らは体勢を整えて湯船の中に座った。

 僕の開いた足の間に詩織が後ろ向きで座り、そのまま寄りかかってくる。大きくなったモノは反り勃ちながら、詩織の腰の部分に当たった。僕が両腕で捕まえるようにして抱きしめると、詩織は慈しむようにその腕に触れた。詩織の背中と、僕の胸が重なっている。

 

「安心する」

「…そうだね」

 

 そこから何も言わず、少し時が流れた。そしてまるで当たり前かのように自然に詩織がこちらを向き、そして僕も横に顔をずらし、キスをした。溺れるような、激しいキスだった。

 僕は詩織の胸に手を添える。乳首に触れると、詩織が体を震わせた。すると、潜水から出てきた時のように、「ぷはぁ」と詩織は口を離した。感じすぎたのか、顔が高揚している。

 

「ごめん、さすがにのぼせそう」

「あ、ごめんごめん」

「ちょっと出るね?」

「うん、大丈夫だよ」

 

 詩織が立ち上がると、海の中から現れた怪獣のように、水を滴らせた詩織の裸体が目の前に飛び込んできた。背中、腰、お尻、足。くびれから腰にかけての広がりが美しく、お尻は白くてまん丸だった。思わず手が伸びる。

 

「ひゃあ。何してんの!?」

 

 詩織が振り向き、湯船に入っている僕を見下ろす。

 

「お尻が綺麗だなって思ってつい…」

「ついって。びっくりしたよ」

「めっちゃいいお尻してるね」

「…ありがとう」

 

 恥ずかしい、と詩織は湯船から出て、シャワーで体に付いた泡を流し、浴室から出ていった。

 僕は湯船に浸かりながら、ふぅーっと息を吐き、顎が浸かるまで体を湯船に沈ませた。そして目を瞑り、さっきの詩織のフェラ顔、そしてお尻を思い出す。萎みかけていたモノは湯船の中で再び大きくなった。

 浴室から出て体を拭いて部屋に戻ると、詩織はバスローブを着て、ベッドに座っていた。

 僕もバスローブを身にまとい、詩織の横に座る。そして詩織の顔を見たときに、とあることに気付いた。

 

「あ」

「なに?」

 

 僕は詩織の顔をじっと見る。詩織は「やめて」と手で顔を隠した。

 

「見せて」

「やめてよ。恥ずかしい」

 

 顔から手を外させて、もう一度詩織の顔を見た。なぜだろう。抱きしめたくなるほどの愛おしさが込み上がってくる。

 

「すっぴんだ」

 

 詩織はすっぴんだった。少し目力がない。眠そうで優しそうな目だった。

 

「恥ずかしいから見ないでよ」

 

 そうは言われても見てしまう。確かに、化粧をした時の方が可愛いのかもしれない。でも、だからと言ってすっぴんが可愛くない、というわけではない。これはこれでいい。化粧した時の可愛さと、すっぴんの可愛さは違う。詩織はすっぴんも、ちゃんと可愛かった。

 

「すっぴん、可愛いよ」

 

 すっぴんを見れたということは嬉しい。心を開いたくれたように思える。なかなか人には見せられない部分を見せてくれたと、自分を信用してくれたような感じがして、とても嬉しい。また少し、詩織に近づけた気がする。

 

 僕はすっぴんの詩織にキスをした。興奮へと誘うような先ほどまでのキスとは違って、眠りに誘うような優しいキスだった。僕らはキスをしたままベッドに倒れこむ。そしてねっとりと、ゆっくりと、キスを交わした。

 バスローブの中に手を入れると、詩織は下着をつけていなかった。僕は自然に胸に触れる。湯船に浸かっていたことで温かくなっていた詩織の体温が手のひらに広がる。

 愛でるように、胸を手で包む。そして重なっていた唇を、頬、首筋、鎖骨、と少しずつ下に下げていく。まるで足跡を残すように、詩織の体にキスを落とした。

 

「あっ…」

 

 風呂上がりだからか、詩織の体はスベスベだった。そして、いい匂いがする。透き通った、安心する匂い。僕はキスをし、匂いを思いっきり吸い込んだ。吸い込んでいるのに、いい匂いすぎて、逆に詩織の中に溺れているのではないかと錯覚しそうだった。

 詩織の肌に触れる。詩織のむき出しになっている肌は、ただの彼女の表面に過ぎない。もっと深くに行きたい。それは詩織のことをもっと知りたい、という想いとは別の感情だった。

 唇を下げていき、はだけたバスローブの間に顔を入れた。目の前に詩織の胸が広がる。僕は谷間に顔を埋め、音が出ないように匂いを吸った。

 彼女とうまくいっていないこと、仕事も辞めたいと思っていること。全てがどうでもよくなってくる。過去とか未来とか、考えれば考えるほど苦しくなるものから解き放たれ、僕は今、詩織という女性の体に触れている。ただそれだけを感じていた。

 お酒を飲むこと、女を抱くこと。時に現実逃避と言われるそれらは、決して破滅的なものではない。何よりも今という現在に集中させてくれるものだからこそ、人はそれらに溺れていくのだろう。

 僕は詩織の乳首を舐めた。味はわからない。でも、美味しいという感覚が脳の中に生まれていた。乳首の味が美味しいのではなく、おっぱいを舐めているという感覚が、自分にそう錯覚させているのだろう。

 でも、それでいいのだ。

 錯覚でいいのだ。

 それなら、詩織は今僕の恋人であると錯覚しよう。

 そう、僕は恋人の胸の中に溺れているのだ。

 そのまま詩織の乳首を舐めながら、片方の手で詩織の空いている胸を弄った。詩織は「あん」と吐息を漏らし、体をムズムズと動かし始める。タイミングをみて手を下半身に伸ばすも、詩織の足は固く閉ざされていたので、僕は諦めてずっと胸を触った。そして舐めた。お風呂に入って綺麗になっていた詩織の胸は、もう僕の唾液でベトベトになっていた。

 

「キスして…」

 

 詩織がそう呟いたので、僕は胸をしゃぶるのを止めてキスをした。詩織が両手で僕の頬を包んでくる。その包む手の柔らかさとは対照的に、キスは激しかった。僕も舌を思いっきり出して、詩織のキスに応える。唇が離れ、詩織と目があった。その瞳は潤んでいた。

 

「好き…」

 

 詩織がふと、呟いた。でもその声は、とても悲しげに僕の鼓膜に響いた。

 

「俺も…好きだよ」

 

 僕は詩織を抱きしめる。詩織も僕の首に手を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。

 詩織の言った「好き」には、「彼氏と別れたい」や「僕と付き合いたい」といった意味は含まれていない。それは詩織の表情を見れば明らかだった。

 詩織の「好き」は、悲しさからきている。彼氏が「好き」と言ってくれない。彼氏が優しくしてくれない。そんな彼氏という存在がいるからこそ出来てしまった穴に、僕という存在が入っただけ。

 だから「好き」なのだ。

 彼氏のいる寂しさを埋めてくれるから「好き」なのだ。

 それは、僕にとって痛いほどわかった。なぜなら、僕も同じような恋人のいる寂しさを抱えているからだ。

 恋人とうまくいってないから、僕に「好き」だと言ってしまう。それは、恋人がいなくなってしまったら、消えてしまう想いだ。僕らは恋人からもらえない愛情、手に入れられない想いを、満たし合っているだけだ。

 だから、挿入までいかなくても、ある程度は満たされてしまう。

 

「そろそろ寝よっか」

「うん。そうだね」

 

 僕らは一度だけ唇を重ね、そして布団の中に入り、電気を消し、眠りについた。一緒にお風呂に入り、そしてキスをした僕らは、決して手を繋ぎはしなかった。そして横に詩織がいるにもかかわらず萎んでいくモノのように、僕は深い眠りに落ちていったのだった。

 目を覚ますと、横に詩織がいた。でも、キスをしようとか、胸を触ろうとかは露ほども思わなかった。僕はベッドから出て洗面所で顔を洗い、歯を磨いた後、服に着替えた。

 服を着ていると、詩織が目を覚ました。

 

「おはよう」

「ん…おはよう」

「よく寝れた?」

「うん」

 

 寝癖でボサボサに髪が詩織の顔を隠す。貞子のようで、表情は見えない。

 

「シャワー浴びていい?」

「あ、うん。いいよ。時間だけ気をつけてね」

「今何時?」

「11時だって。だからあと出るまで1時間くらい」

「もうそんな時間なんだ」

 

 詩織は服や下着を持って洗面所へと消えていった。今日は日曜日で、二人とも仕事は休みだ。

 浴室のシャワー音を聞きながら、僕はソファに座り携帯をいじる。彼女からラインが来ていたが、僕はそれに既読をつけず、詩織のラインのプロフィール画像を押した。沖縄だろうか。透き通った青色の海を背景に、横を向いた詩織の全身が映っている。おしゃれなインスタグラマーが投稿してそうな構図の写真だった。

 僕はこの女の子とキスをしたのだな、と思った。

 そして、この子が僕のモノをしゃぶってくれたのだな、とも思った。不思議と、実感は全くなかった。

 

「セックスはしてないしな…」

 

 そう呟き、携帯を閉じると、ちょうどシャワーの音が止んだ。詩織は昨日、僕に胸をしゃぶられたまま寝た。だから、胸についた僕の跡は流されてしまっただろう。そう思うと、なんだか寂しくなった。その寂しさとともに、明日仕事があるという現実が、近づいてくる。

 

「ごめん、お待たせ」

 

 服を着た詩織は、やはり先ほどのラインのプロフィールで見た女性そのものだった。化粧はしてなかったのですっぴんだったが、すらっとしたスタイルは画像と変わらなかった。詩織本人の画像であるから、当たり前だ。

 それでも、目の前で見ても、この詩織の胸をしゃぶったという実感は湧かなかった。触れ合った記憶は、眠りにつくとともに、夜の中に消えてしまったのかもしれない。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 僕は詩織に近づき、そして自然にキスをした。詩織は目をつむって受け入れてくれた。あの画像の女の子とキスをしたという実感はない。

 でもそれは、詩織とのキスが当たり前になってしまったからだろうか。恋人がいるのに、なんの罪の意識もなく、僕らはもうキスができるようになっている。日常に溶け込みすぎてしまっている。

 ホテルを出ると、夜中とは打って変わり、歌舞伎町の街は閑散としていた。日曜日であるのに、ちらほらとしか人がいない。男女の組み合わせが多いので、おそらく僕らと同じようにラブホテルに泊まった帰りなのだろう。目の前を歩いている男女は手を繋いでいなかった。もしかしたら彼らも、僕と詩織のような曖昧な関係なのかもしれない。

 僕と詩織も手をつながず、くっつきすぎず、離れすぎず、微妙な距離感を保ったまま新宿駅に向かった。かすかに心にあるやましいことをしているという事実が、無意識に微妙な距離を作っているのかもしれない。僕らが身体を寄せ合えるのは、周りに誰もいない個室だけだ。

 外に出ると、どう距離をとっていいのかわからなくなってしまう。横を見ると、詩織は眠そうな顔をしていた。その表情を可愛いと思えるような性欲は、もう僕の中に残っていなかった。

 

「これからどうする?」

「どうする?」

「その…ご飯食べるとか」

 

 詩織に問いかけたが、彼女は眠そうで、何も考えられないようだった。

 

「んー。やっぱり今日は帰ろうか」

 

 詩織は何も言わず、コクリと頷いた。

 

 昨日の夜に待ち合わせした新宿東口の地下改札についた。帰りの電車がそれぞれ違うので、ここでお別れとなる。

 

「じゃあ、また」

「うん」

「また連絡するね」

「うん」

「楽しかったよ」

「うん」

「眠そう」

「ごめん。眠くて、頭が」

「まわらないよね」

「そう」

「じゃあ」

「うん。またね」

 

 眠そうな詩織が改札に入り、背中が見えなくなるまで見送ったあと、僕は自分の乗る電車の場所に向かった。

 ホームに上がる階段を上ると、日曜日だからか、これからデートをするような手を繋いだカップルがたくさん降りてくる。その姿を見ると、どうしようもないザワザワとした羨ましさが胸の中に広がっていく。

 詩織とホテルに泊まっても、僕は満たされていないのか。

 その悲しさから目を背けるように、僕はイヤホンを耳につけ、爆音で音楽を鳴らし、電車に乗った。

 この日から間を空けることなく、僕と詩織はすぐに会うことになる。そこで、念願の喜びと、その代償としての大きな悲しみに出会うのだが、この時の僕はそれを知らない。

 電車の扉が出発を合図に、ゆっくりと閉まった――。

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(文=隔たり)

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