隔たりセックスコラム:恋人がいる寂しさ#3「唇だけの夜」
隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。 |
重なるまでにどんなに時間がかかっても、一度触れ合ってしまったら、そのあとは磁石のように、何度も唇同士は重なり合う。
約1年半前に僕と詩織は知り合った。そしてその日以来、約1年半ぶりに会った、今日。それまで一度も重なり合うことのなかった唇は、触れた途端に、その空白の時間を埋めるように絡まり合っていく。
一度も入ったことのない、新宿歌舞伎町のラブホテル。詩織との時間を終わらせたくなくて、何も調べず、ただ勢いだけで入った場所。ただベッドが置いてあるだけの狭い部屋だ。きらびやかな外観に比べ、部屋の中はそこまで綺麗ではない。年季を感じる。ただ、セックスするためだけの空間。その空間の中で、彼氏のいる詩織と、彼女のいる僕が、キスを交わしてる。
彼女に対する後ろめたさとか、詩織の彼氏に対する罪悪感みたいなものは、一切ない。
彼女といる時、僕はずっとしんどかった。だから仕方ないじゃないか。そんな投げやりな想いが体を支配する。自分の心を苦しめてまで作り上げなければならない愛の形などあるのだろうか。
僕は自分が被害者だと思っている。いや、被害者でありたかった。そして詩織のことも被害者であると捉えたかった。実際に詩織が彼氏とどんな関係であるかはわからない。でも、詩織が被害者であれば、僕と同じ立場になる。同じ立場だから分かり合える。傷を癒し合える。
ただ目の前の詩織だけを見て、現実逃避をするかのように、僕はただただキスに溺れていく。
「詩織…」
僕はベッドに押し倒されている詩織にキスの雨を降らした。詩織はそれをただ受け入れているだけであったが、拒みもしなかった。
僕が舌を出せば、詩織も舌を出し、絡ませてくれた。僕は柔らかな詩織の舌を舐め、吸う。ザラザラとした舌の表面同士が触れ合うたびに、電気が流れるようなゾクゾクとした快感が身体中を駆け巡った。久しぶりの味だった。久しぶりの、キスの味。
「ごめん、止まらなくて」
「ううん。大丈夫」
「久しぶりで」
「…」
「詩織は…久しぶり?」
詩織は何も言わずコクリと頷いた。唇は僕の唾液で少し光っている。その輝きが、詩織とキスをしたのだという事実を、客観的に自分に認識させた。
彼氏のいる子とキスをした。
これまでも彼氏のいる女の子とキスをしたことはある。どの女の子も彼氏との関係に寂しさを抱いていて、その寂しさを埋めたがっているように見えた。まるで僕に彼氏の姿を投影しているような、そんな感覚があった。
だがしかし、今回はいつもと状況が違った。確かに詩織には彼氏がいて、これまで出会った女の子と同じように寂しさを抱いている。違うのは、僕にも彼女がいるという点だ。今まで彼氏のいる子とセックスをしてきた時は、僕自身に恋人がいなかった。
だから初めてなのだ。互いに恋人がいる状態でキスをするというのは。
これは互いに、互いの恋人を投影しているのだろうか。恋人とそういうことができない寂しさを、互いの体を使って満たしているだけなのだろうか。僕らは互いの恋人の代わり、ただそれだけなのだろうか。
「詩織…キスして」
詩織がどう思っているかわからない。だが、僕自身に関しては「違う」という感覚が確かにあった。
彼女とセックスできないから、詩織に彼女を投影しているわけではない。そういう気持ちが全くないとは言えないかもしれないが、確かに今、僕は詩織とセックスしたいと思っている。恋人のいるいないは別として、詩織という女性とセックスしたいと思ってしまっている。それぐらい、詩織には魅力があった。
「え…恥ずかしいよ…」
僕が見つめると、詩織は恥ずかしそうに目をそらした。僕は再び詩織の頬に手を当て、すくい上げるようにこちらを向けさせる。そして再び自分の唇を詩織の唇の上に落とした。
「んっ…」
キスをしながら、手を詩織の腰へと移動させる。そして体の曲線をなぞるように登っていき、優しく膨らんだ胸に触れた。
「ダメ…」
詩織の手が僕の手を抑えてくる。でもそこに力はない。僕はキスで口を塞ぎながら、詩織の手に抑えられたまま、胸を揉んだ。
「んっ」
胸を揉みながらキスを続けていると、だんだんと詩織の呼吸が荒くなった。蛇のように、体がクネクネと動き始める。その動きと同じように、僕の体もクネクネと動く。熱くなった下半身が、詩織の太ももに擦られた。僕も硬くなったモノを詩織の太ももに擦り返した。
唇を離すと、舌と舌の間にツゥーっと糸が引いた。その糸は照明に照らされ、輝く。僕と詩織をつなぐか細い糸。互いに恋人がいたって人間は他の人と繋がれてしまうという事実を、美しく切り取ったかのように伸びていた。
その糸に引っ張られるように、再び唇は詩織の上へと落ちる。ホテルに入ってからどれくらいの時間、キスをしただろうか。確実に時間は進んでいるはずなのに、唇が触れている瞬間だけ、時が止まったような感覚になる。現実世界がぼやけていき、もう何も考えられなくなった。
一生キスをし続ければ、僕らは何も悩むことなく幸せに生きていけるのではないか。
そう大げさに思えるほど、僕は深く詩織の中に落ちていく。
もっと、もっと、深いところまで。もっと、もっと、繋がりたい。
僕は胸を揉んでいた手を離し、詩織のタイトニットの中に入れようとした。
しかし、その手を詩織は再び抑えてきた。また形だけだろう。そう思って手を握られたまま服の中へと入れようとしたが、この雰囲気には似つかわない力強さで詩織は僕の手を握った。
僕は唇を離し、顔を上げて詩織を見つめる。詩織の目はトロンとしていたが、さっきまで重なっていた唇は固く閉ざされていた。唇と唇の間にはもう、糸は引いていない。潤んだ瞳で詩織は何かを訴えるように首を横に振った。
「それはダメ」
一瞬、時が止まった。それは先ほどまで感じていた、時間概念が消えて世界から二人だけが切り離されたような感覚ではない。何かが断ち切られてしまったような、そんな止まり方だった。
「えっ」
思わずそう声が漏れた。こんなにいい雰囲気だったではないか。服の上から触るのと、直接触ることの何が違うのか。そんな疑問を飲み込み、僕は詩織にお願いする。
「直接触りたい…ダメかな?」
「…ダメ」
女性の「ダメ」という言葉は難しい。「ダメ」と言うのは自分が「軽い女」と思われたくないからだけで、本当はダメじゃないこともあると聞く。むしろそこで手を引いてしまうと、「察せない男」とレッテルを貼られてしまうことだってあるらしい。
かと言って、本当にダメなことだってある。ダメと言われているのに、「女のダメはダメじゃない」と思い込んでやってしまうと、本当に嫌がられ傷つけてしまうことだってある。女性の本音を察するのは、男にとっていつも難題だ。
「それは…どっち?」
詩織の「ダメ」がどっちの意味かわからないから、僕は聞いてしまう。でも、「ダメ」と言った女性が素直に「ダメって言ったら、それはしても良いってことなの」と説明してくれるわけがない。返ってくるのは同じ「ダメ」という言葉だけだ。
「直接触るのは…ダメ」
案の定、詩織からも想像通りの答え返ってきた。なぜ、直接胸を触ることがダメなのだろうか。僕らはもうすでに、互いに恋人がいるのにキスをするという、ダメなことをしているではないか。その線引きはなんなのだろう。キスは良くて、服の上から触るのは良くて、直接胸に触れるのがダメな理由を、教えて欲しい。
「わかった」
教えて欲しいと思いながらも、僕はけっきょく受け入れてしまう。女を傷つけてしまう可能性がある方が嫌だ。相手の願いを叶えることよりも、僕は相手が傷つかない方を優先してしまう。僕は臆病なのだ。
「それなら」
詩織が何を思っているのかはわからない。しかし、僕は僕が何を思っているのかは知っている。ならば、僕の願いを詩織に伝えよう。
「詩織の胸を直接触るのがダメなら、俺のを…直接触って欲しい」
僕は詩織の手を持って、大きくなったモノをズボンの上から触れさせた。詩織はそれを拒まなかった。
「…大きくなってる」
抱きしめ合いながらキスをした時、大きくなったモノは詩織の太ももに当たっていた。それに気付いてないはずがなかろう。それなのに、詩織は初めて気付いたというようなリアクションを見せた。女性の気持ちを理解することは難しい。
でも、その難しさが女性の魅力を作っているのかもしれない。素直に気持ちを言えないところを、僕は可愛いと思ってしまう。僕はもう、女性という蜘蛛の巣にかかっているのだ。僕が詩織を持ち帰ったと思っているが、本当は逆なのかもしれない。詩織が張った巣の中で、僕は踊っているだけなのかもしれない。
それでいい。女性に弄ばれることは快感だ。早く、モノを弄んで欲しい。
「じゃあ、脱ぐね」
僕はベッドに寝転がってズボンを脱いだ。詩織は「脱がないでいいよ」とか「ダメだよ」とも言わず、僕がズボンを脱ぐ姿を体を起こしてただただ見ていた。
パンツだけになると、モノは飛び出しそうなほど大きくなっていた。テントを張ったその頂きを、詩織は不思議なものも見るような瞳で見つめている。
「触っていいよ」
その頂きをゆっくり登るように、詩織はモノの根元から手を沿わせた。指がモノの形にまとわりついていく。布一枚を通して伝わる詩織の手の感触に、モノはさらに大きくなっていく。
「うわぁ」
詩織はそう声を漏らした。先ほどまでトロンとしていた瞳は消え、今は好奇心が満ちている。詩織はもしかしたら男性経験が少ないのかもしれない。リアクション見て、ふとそう思った。
「脱がして欲しいな」
「えっ、パンツを?」
「うん」
「どうやって?」
僕は腰を浮かした。
「ほら。脱がして欲しい」
詩織は僕の足と足の間に入り、パンツに両手をかけて、ゆっくりと引いた。
「うわぁ」
パンツから解放されると、モノは天に昇るように勃ち上がった。血液が流れ込んでいてパンパンに膨らんでいる。詩織はそれは触ることなくじっと見つめていた。僕はモノに血液を送る。
「わあ、動いた」
モノを動かすと、詩織は可愛く笑った。その笑顔が、先ほどまでの艶やかな雰囲気を解いていく。濃密な空間が晴れやかになった。それが、良いことなのか悪いことなのかはわからない。
ただ、詩織が笑ってくれるのは嬉しい。僕はモノに血液を流しこみ、ピクピクと動かした。詩織の表情がほころぶ。「ダメ」と言われてからの行き場のないようなまどろっこしい雰囲気が、ゆっくりと消えていく。
「触って」
詩織はおそるおそる僕のモノに手を伸ばした。そしてゆっくりと指一本一本を重ねるように握っていく。
「あったかい…」
「あったかい?」
詩織はコクリと頷く。
「そしたら、手を動かして」
「こう?」と、詩織はゆっくりと手を上下に動かし始めた。手が上がると同時に皮が亀頭を少しだけ包み、そして手が降りると皮の中から亀頭が飛び出た。
「面白い!」
「面白い?」
「うん、不思議」
「そうなんだ」
「これ、気持ちいい?」
「うん、気持ちいよ」
詩織は一定のペースでモノを上下にシゴく。その動きはややぎこちなくはあったが、包み込む手は優しくて気持ちよかった。柔らかな快感が身体中に広がっていく。女性に触ってもらえるのはやっぱり嬉しい。忘れかけていた感覚に、興奮が高まってくる。
「そしたら、舐めて欲しい」
「え、舐めるの?」
「うん、舐めて欲しい。我慢できない」
詩織は手を動かしたまま、悩むような形で一瞬黙った。また、ダメと言われてしまうのだろうか。
「…どうやって舐めれば良いの?」
「どうやって?」
「うん」
「えっと…」
どうやら舐めるのは「ダメ」じゃないらしい。ますます詩織の中の基準がわからなくなっていく。
「そしたら、根元から舐め上げてみて」
「うん」
僕がそう言うと、詩織は素直に根元に舌を当てた。そしてゆっくりと舐め上げていく。
詩織の綺麗な顔の前に、僕のいきり立ったモノがある。詩織が僕のモノを舐めている。なんてエロい光景だろう。
「そしたら、亀頭…先端の部分をぺろぺろって舐めてみて」
「こう?」
「そう。めっちゃ気持ちいい。で、パクって咥えてみて欲しい」
「うん」
詩織は僕の言った通りに亀頭を舐め、そしてモノを口の中に含んだ。
竿が詩織の唇に挟まれているのを感じる。そして口の中の暖かさとかすかな吐息が、亀頭に伝わってくる。今、僕のモノが詩織の口の中にあるという感覚が目をつぶっていたってわかる。嬉しい。忘れかけていたセックスの喜びを僕は思い出し始めていた。
「そのまま口ん中で舐めたり吸ったりしゃぶったりして欲しい。ヨダレまみれにして欲しい」
詩織はモノを咥えたまま「こう?」とは聞かずに、モノをしゃぶり始めた。詩織の頭が上下に動いている。モノが詩織の口の中を出たり入ったりしている。詩織の唾液が僕のモノにまとわり始める。ジュボ、ジュボ、と卑猥な音が鳴り始める。
「やば、その音めっちゃ興奮する…」
詩織は止まらずに、ずっとモノをしゃぶり続けている。
「詩織…こっち見て」
そうお願いすると、詩織は上目遣いでこちらを見た。詩織の口の中にモノが入っている。詩織が僕のモノを咥えている。
「そんなに見られるとと恥ずかしいよ」
詩織はモノから口を離し、恥ずかしそうに笑った。その笑顔を可愛いと思うよりも、僕は「離れた」と思った。モノが口から離れてしまったのだ。まだしゃぶっていて欲しい。もっともっと舐めて欲しい。
「ごめんごめん。見ないから、もっと舐めて欲しい」
そう言って僕は手で自分の目線を隠した。視界が暗くなる。それが余計に感覚を敏感にさせる。詩織がしゃぶってくれている。その姿を見なくても興奮する。想像と感覚だけでイってしまいそうになる。僕は仕事のことも彼女のことも忘れ、ただ今ある気持ちよさに没頭していた。
詩織は手コキを加えながら、裏筋を舐め、しゃぶる。慣れてきたのか、自由にモノを堪能していた。柔らかな舌が亀頭に触れると身体中に電気が走る。モノが口の中に包まれると、優しい暖かさに癒される。
詩織の顔を見たい。僕が手を少し開け、隙間から詩織を見た。一生懸命、集中してしゃぶってくれている。なんて愛おしいのだろう。
「あ、待って。見てるじゃん」
僕が覗いているのに詩織が気が付いた。ごめんごめん、と僕は再び指の間を閉じる。「絶対また見そう」と言いながらも、詩織はモノを舐めてくれる。僕がまたこっそり開いてみると、「もう見てるじゃん」と詩織は笑った。楽しい、と僕は思った。僕は詩織とイチャイチャしている。楽しい。
彼氏のいる詩織と、彼女のいる僕。それでも今の僕らは、互いの恋人以上に恋人だった。いけないことだとわかっていても、楽しくて、濃密で、非日常なこの瞬間を、僕は幸せだと思った。
「詩織」
「あ、手取った」
「あのさ」
「ん」
「詩織のことも気持ちよくしたいんだけどさ」
「それは」
「詩織のそこを触りたいたいんだけど」
「…」
「そこはダメ、なんだよね」
「うん」
今のこの時間を僕は守りたいと思った。その先を無理強いする必要はない。
「ということは、挿入するのもできないってことだよね」
「…」
「俺はもう、詩織と最後までしたいと思ってる」
「うん」
「でも、それは今日じゃなくてもいい。だから、また会って欲しい」
今日だけで最後までしなくていい。最後までしてしまったら、この関係が終わってしまうかもしれない。中途半端でいい。中途半端だから、僕らはまた会うことができる。
「え、でもするかはわからないよ」
詩織は申し訳なさそうな表情をした。
「それはその時に教えて欲しい。今伝えたいことは、また会いたいってこと。また、会ってくれる?」
今日だって、詩織はホテルに行くつもりで僕に会ってなんかいないはずだ。今日の僕との会話で、彼女の感情が動き、そういう行動を取らせた。
だから次会った時、詩織はセックスしようと思っていなくても、いつかそういう気持ちになるかもしれない。会い続けていれば、そうなる時が来るはずだと、僕は今日、詩織と過ごして感じていた。だから、今日はここで終わりでいい。中途半端な、でも確かに幸せだった時間の終わりが、また僕らを引き合わせてくれるはずだから。
「うん。それは全然大丈夫」
「よかった」
「じゃあ、今日はここまでだね」
僕がパンツを履こうとすると、「え」と詩織が驚いたような声を出した。
「ん、どうした?」
「その、出さなくて大丈夫なの?」
「え、出した方がいいの?」
「途中で止めて大丈夫なのかなって」
僕は思わず詩織の顔を見た。詩織は冗談で言ったのではなく、本当に「大丈夫なのか?」と心配したような顔をしていた。なんて純粋なのだろう。愛おしさが爆発しそうになる。
「そしたらまだ時間あるから、もう一回しゃぶってもらえる?」
「うん、わかった」
詩織はモノをパクリと咥え、ジュボジュボと吸い始めた。出す、という目的が明確になったからか、さっきよりも動きが激しい。先ほどまでになかった、新しい動きも見せていた。自由だ。詩織は楽しんでいる。あまり彼氏のモノをしゃぶったことがないのだろうか。それほど、詩織の動きは好奇心に満ちていた。
「やばい、もうイく」
僕は詩織の口の中からモノを出し、自分の手でシゴいた。詩織にティッシュを取ってもらい、手の上で広げてもらった。僕は詩織の手の上に置かれたティッシュを目がけて、激しくモノを擦る。詩織の前で自分のをシゴくのは恥ずかしかったけど、止まらなかった。
詩織はじっとモノを見つめている。そして、モノの先端から白い液体が弧を描くことなくまっすぐに、ティッシュの上へと着地した。
「わあ」
ティッシュを挟んでいるとはいえ、今、詩織の手の上に僕の精液が乗っている。
「あったかいね」
詩織はどこか嬉しそうだった。新しい体験をした子供のような表情を浮かべていた。
僕は詩織からティッシュをもらい、ゴミ箱へ捨てた。そして自分のモノもティッシュで拭いて処理をし、急いでズボンをはいた。
「恥ずかしがったわ」
「ん?」
「詩織の目の前でシコってるの恥ずかしかった。出した後とか、急に恥ずかしくなったよ」
「えー。じゃあ、あんまり気持ちよくなかった?」
なんて愛おしいのだろう。僕の気持ち良さを気にしてくれるなんて。こんな詩織と、毎日エッチなことができたとしたら、どれだけ幸せなのだろうか。詩織と詩織の彼氏はなぜ、セックスレスなのだろう。挿入しなくても、こんなに気持ちよく、そして楽しいのに。
「そりゃ、めちゃくちゃ気持ちよかったよ」
「よかった」
そうして僕らは自然に唇を重ね合った。キスをするたびに、舌の絡み方がスムーズになっていく。どんどん相性というものがよくなっているような気がした。この瞬間が永遠に続いて欲しい。心からそう思った。
このキスが終われば、ホテルを出て家に帰り、明日また会社に行かなければならない。でも、今は寂しいという気持ちはこれっぽっちもなかった。
また詩織に会える。また詩織に会ったらキスができる。もしかしたら、セックスができるかもしれない。
今日は終わってしまうけど、明日以降に希望がある。明日に希望があるのは、社会人になって初めてだ。
楽しい日には必ず終わりがある。けれど、終わりの先にはまた新たな楽しさが待っていて、その楽しみが生きる理由になっていく。仕事の現実は変わらないかもしれないけど、楽しみな予定があるだけで、辛い現実を耐えよう、耐えたいと思える。
「そしたら時間だし、行こうか」
「うん」
外に出ると、暗闇の中、夜が更けたことを気づかせないくらい、相変わらずラブホテルのネオンは光っていた。その妖しくも輝いている光が、僕のこれからを暖かく照らしてくれているような気がした。
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(文=隔たり)