「お待たせいたしました」
そういってタバコを差し出すと、
「あ……あ、ありがとうございます」
信子さんの顔をじっと見つめながら口ごもる男性客。その視線が思いのほか熱かったらしく、
(ちょっと…そんなに見つめられると照れちゃうわ)
なんて思いながらフロントに戻った信子さん。
すると、その5分後に再び603号室から呼び出しベルが鳴り、今度は、
<あの…ライターってありますか?>
と注文が入ったそうなのです。
呼び鈴を押すと、再び開く603号室の扉。
「ライター、お持ちしました」
「な、何度もす、すみません」
先ほどと同じように、信子さんに見とれるような視線を送ってくる男性客。
すると彼が、意を決したようにこう言ったそう。
「あの…実は…会社で上司にこっぴどく怒られて、年上の女性に癒されたいと思って熟女デリヘルを利用したんですけど…」
デリヘルからやってきたのは見た目も態度も、理想と真逆の派手な女性で、結局、何もする気になれないまま時間がきてしまった、という男性。そして、その後に続いたのは思いがけない告白で…。
「さっき、タバコを持ってきてくれたあなたが超タイプだったもので…」
熱い視線は感じてはいたが、突然のことに固まってしまった信子さん。しかし、さらに続く彼の発言に、仕事を忘れることになるのです。
「あの…お金払うんで…手でいいので…10分でいいので…オナニーするのを手伝ってもらえませんか」
そのときの心境を、信子さんはこう語ってくれました。
「50歳を過ぎたラブホテルの掃除のオバサンに告白してくる若い男性がいるなんて、ありがたい話じゃないですか。会社で上司に怒られた話が本当かどうかは分からないけど、あんなに一生懸命に頼まれたら嫌とは言えなくて(笑)」
オーナーにバレたらクビになるかもなぁ……ちらりとそう思いながらも、
「本当に10分で終わりますか?」
顔を赤くする彼に、信子さんはそう返答していたそう。
そして「失礼しますね」と部屋に入ると、男性と並んでベッドのふちに座り、いきり立つチ〇ポを右手で優しく包み込んであげたそう。そして、
「あ、ありがとうございます……き、気持ちいいです」
と、自分より30歳近くも若いだろう男性に求められ、お礼まで言われることが嬉しかったという信子さん。
「乳首…舐めながらの方が気持ちよかったりしますか?」
「タマタマの方も、撫でた方がいいかしら」
とサービス精神が出てしまった上…、
「あの…よかったら、お口でしましょうか」
と、自らフェラ抜きを申し出たそうで…。
「本当に10分くらいの出来事だったけど…その男の子、すごく喜んでくれて。風俗って悪い仕事じゃないんだなと思ったんです。それに、私みたいなオバサンでも需要があるんだなって(笑)」
それでラブホの仕事を辞め、風俗に転身したのだと語ってくれた信子さん。
ね、おそらく、女性が風俗仕事を始めるきっかけとして、これほど珍しいケースはないんじゃないでしょうかね。
信子さん、現在は60歳近くになられているでしょうから、風俗のお仕事を続けているかは分かりませんが、きっと多くの疲れた男性を癒してきたに違いない…この原稿を書きながら彼女を思い出し、そう感じた僕なのでした。
(文=川田拓也)