隔たりセックスコラム「不倫している女」
隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。 |
セックスとは愛の行為である。恋人や妻など、大好きな人とセックスをすることによってお互いの気持ちを再確認し合い、愛はより深まっていく。
そしてセックスは、社会的に自分を肯定する行為でもある。童貞を卒業したいという気持ちも、経験人数が何人と自慢する気持ちも、要は社会的に自分は男としての価値のある人間だと思いたいからだ。
マサミという女性と出会ったのは、大学を卒業して2年目の頃だった。当時、僕はニートだった。
暇つぶしに誰かとセックスできたらいいなと使っていたマッチングアプリで、僕はマサミと知り合った。マッチングした後、ラインを交換してメッセージを交わすと、とんとん拍子で会うことが決まった。
当日、仕事でトラブルがあったので時間に間に合わなそうだと、マサミから連絡が来た。リスケすることを提案されたが、こちらはニート、時間はたっぷりある。
「ぜんぜん大丈夫だよ。そしたら、マサミの最寄駅で会うのはどうかな? 少しでもマサミに会いたいし」
マサミは会社から徒歩5分のところに住んでいた。つまり、マサミが仕事が終わった瞬間に会えるように提案したのだ。
「ありがとう! 頑張って仕事終わらせます!」
マサミとはご飯を一緒に食べようと話しており、セックスする約束はしていなかった。しかし最寄駅に行くとなれば、違う欲求がどうしても生まれてしまう。マサミの家に行って、セックスがしたいと。
マサミからもうすぐ仕事が終わると連絡が出たので、時間を潰していたカフェを出て駅前へ向かった。駅前の広場にベンチに座り、マサミを待つ。すると、商店街の方からこちらに向かって真っ直ぐ歩いてくるマサミらしき女性を発見した。
「へ、隔たりさん、ですか…?」
マサミはスタイルが良いというよりも、細すぎるという形容がぴったり当てはまるような体型をしていた。よく言えばスレンダー、悪く言えばガイコツ。足も細くてすぐに折れてしまいそうだ。
「はい。マサミさんですか?」
そう答えて座ったままマサミの顔を見上げた。黒髪のショートカットにパッチリとした目と、そこまでは良かったのだが、口元がなんだかものすごく盛り上がっている。
「そ、そうです」
マサミが口を開くと、大きな出っ歯が剥き出しになった。その歯を見て、よりガイコツという印象が強くなっていく。
「お、お待たせしま、した」
マサミの声は震えていて、緊張しているようだった。顔も少し強張っている。夜遅くに、その表情を見るのはなんだか怖かった。
しかし、セックスをしたいという欲望が湧き上がった以上、ここで帰るという選択肢はない。
「そしたらさ」
僕は立ち上がって、マサミに声をかける。
「夜遅いし、お店もあんまり長居出来ないから…マサミさんの家でお話しするのはどうかな?」
マサミの顔がさらに強張ったように見えたが、僕は続ける。
「ほら、せっかく会えたから、長く一緒にいたいし。マサミさんも仕事で疲れてると思うから、家の方がゆっくりできるかなと思って」
そこまで言い切って、マサミの返答を待った。マサミは困ったような表情を浮かべている。
「ダメかな?」
「ダ、ダメではないけど…」
「けど?」
「そ、その…部屋とか汚くて」
「そしたら、整理してる間、外で待ってるよ」
「で、でも、申し訳ないし」
「優しいんだね。でも大丈夫だよ。マサミさんと家でゆっくり話せるならぜんぜん待てる」
「そ、そうですか。それなら…いいですよ」
僕が「やった!」と喜ぶと、「そんなに嬉しいんですか?」とマサミは笑った。子どものような無邪気な笑い方で、不覚にも可愛いと思ってしまった。
「そしたら、行こうか」
そうして、僕はマサミの家に行くことになったのだ。
部屋の外で5分程度待ち、整理が完了したというので、マサミの部屋の中へ入った。
マサミの部屋は閑散としたような寂しい感じがした。壁がくすんだ色をしていて、主要な家具はベッドとテレビとテーブルしかない。引越したばかりなのか、部屋の隅に多くの段ボールが重ねられていた。
「掃除するって言ってたから、汚いのかなと思ってたけど、ぜんぜん綺麗だ」
「よ、よかった。でも、服とかが散乱してたから、クローゼットにしまったの」
ふたりで一緒に横並びになって、ベッドに腰掛ける。
「マサミさんは出身どこだっけ?」
「出身?」
「いや、ダンボールがいっぱいあるから、最近こっちに引っ越してきたばかりなのかなって思って」
「あ、なるほど。岡山に住んでて、こないだ東京に来たばかり」
話を聞くと、どうやらマサミは会社の転勤で最近東京に来たようだ。
「東京は慣れた?」
「あんまり。友達がいないから寂しい」
「あ、だからアプリやってたんだね」
「そう」
ふと、テレビの横に置いてある、写真立てが目に入った。その写真にはマサミと、キャバクラに勤めてそうな派手めの綺麗な女性がうつっていた。
「あの写真にうつっているのは友達?」
写真を指差して、マサミに尋ねる。
「うん、親友って言っていいのかな。前の職場の先輩なんだけど仲良くて、ずっと一緒にいた」
地味目なマサミがキャバ嬢のような綺麗なお姉さんと親友というのは想像できなかった。それぐらい、ふたりの見た目は正反対だった。
「その先輩とは今でも連絡とってるの?」
「うん、たまに。相変わらず遊んでるって」
「遊んでる?」
「男が5人くらいいるの」
「え、すごいね」
「懐かしい。私もそんなことしてたな~」
その言葉に驚き、僕は思わずマサミの顔を見た。
「そんなこと?」
「まあ、先輩みたいにたくさんじゃないけど」
「え、マサミにも男が…セフレが複数いたってこと?」
セフレじゃないよ、とマサミは笑った。ガイコツのような第一印象だったマサミが、不思議と良い女に見えてくる。
「上司と付き合ってたの」
そしてマサミは衝撃の一言を放った。
「その人には奥さんがいて」
さらにマサミは続ける。
「2年くらい付き合ってたかな」
お世辞にも可愛いとは言えないマサミ。誰が見ても男とは遊んでいないと思うだろう。マサミは遊び人というよりも、どちらかと言えば男性経験がないと言われてしまうような見た目だ。そんなマサミが2年もの長い間、既婚男性と付き合っていたとは。
「え、じゃあ、その人とは?」
「東京に行くことになったから、それで別れたよ」
「その人のことが、好きだったの?」
「んー好きだったというか」
「え?」
「言い寄られて、断われなくて、そのまま」
「そのまま…2年間も?」
「うん」
言い寄られて、断われなくて、そのまま、不倫。好きという気持ちがあまりなくても、その関係が2年も続く。そんなマサミはいま、東京に来たばかりで友達がいなくて寂しいと言った。寂しいと。
「マサミ」
呼び捨てでマサミの名を呼ぶ。
「ん?」
断われなくて、不倫。
「あのさ」
東京に来てから、寂しい。
「こっち向いて」
マサミが話したこと全てが、僕をセックスへと誘っているようにしか思えなかった。
「何?」
マサミがこちらを向くと同時に、磁石が引き付け合うように僕の唇とマサミの唇は重なった。
マサミの唇は乾いてて良い感触ではなかったが、僕の唇は離れなかった。それは僕と同じように、マサミの唇も全く動かなかったからだ。
そのまま、唇が重なった状態で、少し時が過ぎた。互いに全く動かず、まるで時が止まっているようだった。目をうっすら開けると、マサミは目を閉じていた。その表情は不倫経験者というよりも、やはり男性経験の少ない処女という方が似合っていた。
唇の中から舌を出し、乾いたマサミの唇を舐めた。ザラザラとした皮膚の感覚が舌先に伝わってくる。あまり気分の良い感触ではなかったが、マサミも舌を出してきて欲しいと願いながら、何度も唇を往復した。
けれども、いっこうにマサミの舌は出てこない。しびれを切らした僕は、やや強引に舌を口の中へと差し入れた。そのまま真っ直ぐ舌を伸ばすと、柔らかな膨らみに当たった。当たった、だけだった。
口の中に舌が入って来ているのに、マサミは舌を動かさない。マサミの舌はただただそこに佇んでいるだけだった。絡ませようという意志が全く見えてこない。
何の反応も見せないマサミに、僕は怯えて唇を離した。本当にマサミは、不倫相手をしていたのだろうか。不倫相手になるような女性はエロいはずだというのは、僕の思い込みなのだろうか。
マサミの顔を見つめると目が合った。その目は決して僕を拒絶しているようなものではなかった。むしろ、「何でキスをやめたの?」というような、誘う目であった。
「いいの?」
わからなくなった僕は、マサミに言葉での同意を求めた。
すると、マサミは「うん」と、当たり前と言わんばかりにコクリとうなずいた。
「わかった」
僕はマサミに再びキスをして、そのままベッドに押し倒した。そして服の上から、マサミの体を弄り始めた。
胸、くびれ、お尻、足。ガリガリのマサミの体は、どこを触っても骨のような感触がした。特に胸の膨らみは全くなく、ただ下着を触っているような感覚だった。これでは興奮できない。
「服、脱がしていい?」
触り心地で興奮しないのなら、裸を見て視覚で興奮しよう。そう思ったのだが、それも失敗だった。マサミの体は想像以上に骨が浮き出ていた。その姿は歳を取って痩せたおばあちゃんのようにも、まだ発育しきってない痩せ型の幼女のようにも見えた。
なぜ、この体を持ったマサミと上司は2年もの間不倫をしたのだろう。セックス中であるのに、そんな疑問が頭に浮かび上がってくる。
「あ、ごめん。電気消してなかったね」
マサミのことを気遣うような演技をしながら、電気を消して部屋を真っ暗にした。これでマサミの体はハッキリとは見えなくなった。
上司との不倫関係が2年も続いたということは、2年間セフレの関係だったとも言い換えることができる。つまり、上司は2年間、マサミのこの体を抱き続けたということだ。
正直、ここまででは、上司がマサミの体を抱き続けた理由を見つけることはできていない。本当に2年間不倫相手をしていたのかと疑ってしまうほど、マサミからは性の匂いが全くしなかった。
顔じゃない、体じゃないとしたら、マサミの性的な魅力はどこにあるのか。あと残るのは、感度、そして膣の締まり具合のふたつ。僕は最後の望みをかけて、薄っぺらいマサミの体を愛撫していく。
しかし、乳首を舐めても、マサミは感じるようなそぶりを見せなかった。感度は良くないというよりも、むしろ悪いくらいだ。
どこかに弱いポイントがあるかもしれないと、長い間体を弄ってみたが、けっきょくマサミから良い反応は得られなかった。
「下、触るね」
ならば、アソコの感度がいいのかもしれないと僕は祈るように下半身に手を伸ばす。そして指をゆっくりと沿わせた。
「…」
濡れてない。いや、かろうじて濡れてはいるが、ほんの少しだけだ。自分の愛撫がそれほど下手だったのかと、自己嫌悪に襲われる。
しかし、ここまで来たからには挿入までたどり着きたい。わずかな指先についた液体を全体に伸ばし、馴染ませていく。そして、クリトリスを優しく撫でた。
「んっ」
一瞬、一瞬ではあったが、マサミがそう声を漏らした。
「ごめん、痛かった?」
「ううん。痛くない」
痛みを与えていなかったことに安堵したが、マサミの声は余裕そうだった。本当はもっとよがり狂って欲しい。感じて欲しい。僕はもうここしかないと、クリトリスを執拗に攻めた。
上司はなぜ、不倫相手にマサミを選んだのだろう。
同じ動きでずっとクリトリスを攻めていると、ほんのりではあるが、アソコに熱が広がっていくのを感じた。
一度クリから指を離し、膣の入口付近を触る。びしょ濡れまではいかないが、なんとか挿入は出来そうだ。もうこのタイミングしかないと、僕はやや大きくなったモノを自らシゴいてさらに大きくし、カバンからコンドームを取り出して、モノに巻きつけた。
本当はマサミのフェラも体験してみたかった。マサミはフェラが上手で、上司はもしかしたらそのトリコになっていたのかもしれない。その可能性はわずかにある。
しかし、ここでフェラをお願いしてしまうと、マサミのアソコが乾いてしまうという心配があった。もう一度濡らすという作業は心が折れる。僕はフェラよりも、挿入を優先したい。
「入れるね」
うん、とマサミはか細い声を漏らした。暗闇に慣れたとはいえ、マサミの表情はよくわからなかった。
マサミのアソコにモノを当てる。体が細いからか、アソコはより小さく見えた。この中に、大きくなったモノが入るのだろうか。
「いくよ」
根元を持って先端が穴に入るように固定し、ゆっくりと腰を前に押し出す。開かない扉のように、穴が反発しているように感じた。
しかし、それをかき分けていくようにモノを挿入していく。
モノが中に入っても、マサミは何も反応しなかった。
膣の入り口が強く根元を挟み、なかなか奥まで進まない。膣肉が包み込むというよりも、膣の中の骨に挟まれているという感じだ。
しかし、それによって強烈な圧迫を感じ、刺激が襲ってくる。時間をかけて奥まで挿入し、モノがマサミのアソコに全部包まれると、まるで自分の手で強く握っているような圧迫を感じた。
「中、すごくキツイね」
思わずそう声が漏れる。マサミは目を瞑っており、何も返答してくれない。
そのままゆっくりと腰を動かしていく。しかし締め付けが強すぎて、激しいピストンができない。少し腰を引くたびに強烈な快感、いや、痛みに襲われる。モノが破裂してしまいそうだ。
「き、気持ちいよ」
そう口に出すことによって、痛みを快感だと自らに錯覚させる。
僕は再び奥まで挿入し、体を倒してマサミを抱きしめた。体が細すぎて、マサミの体は僕の体にすっぽり包まれた。肉が付いていないからか、体温も冷たく感じる。それでも僕はセックスをしているという事実にしがみつくように、マサミの体を思いっきり抱きしめた。
そして引くのではなく、そのままより奥深くに押し付けるように腰を動かしていく。
「ハァハァハァ」
耳元でかすかにマサミの吐息が聞こえた。ちゃんと感じてくれているのだと、少し安堵する。
この動きならあまり痛みは感じなかったので、僕はその動きを続けた。しかし痛みを感じないとはいえ、アソコの中に入っていることには変わらない。徐々に快感がモノの先端に集まってくる。
「イ、イくよ」
激しく腰を振ることなく、マサミが大きく喘ぐことなく、僕は発射した。
なんとも味気ないセックスだった。セックスしてより、上司がマサミと2年間も不倫関係を続けた理由がわからなくなった。
僕はゴムを処理し、「シャワー借りるね」と言って、浴室へと入った。汗を流し、体を拭いて部屋に戻ると、マサミはまだセックスが終わった時の状態のまま、ベッドに寝ていた。
「マサミ、大丈夫?」
「ん…」
「眠いの?」
そう尋ねると、マサミは首を横に振った。
「眠くないよ」
「そうなんだ。シャワー浴びる?」
「動けないの」
そしてマサミは声を絞り出すように、こう言った。
「何回もイっちゃったから…動けないの」
え、と僕は唖然とした。イっていたなんて、全くわからなかった。
「ほ、本当に?」
そう聞くと、マサミは残りの力を振り絞るような仕草で「うん」と頷いた。
マサミの下半身を見ると、確かにわずかではあるが震えているように見えた。そっと手を当てると、手のひらに軽い振動が伝わった。
「本当だ…」
気がつかなかった。
「い、いつイったの?」
「奥に入ってるとき…何回もイっちゃった」
奥まで入れて抱きしめた時、断片的に聞こえた「ハァハァハァ」という声は、イった合図だったのか。
「全然…気づかなかった」
今思えば、セックス中、マサミの口は頑なに閉じられていた。あれは感じていないから開かなかったのではなく、感じすぎていたから我慢していたのかもしれない。
「でも…イったなら、よかった」
全く反応がないから、セックスが嫌いなのかもしれないと怯えていた。不倫相手をしていたという話を聞いていなければ、途中でセックスをやめていただろう。2年間不倫関係を続けたからには、どこかにその要素が確実にあるだろうと思えたから、最後まで続けられた。
「よかった。俺だけ気持ちよくなってたとしたら、申し訳なかったから」
「優しくしてくれて…ありがとう」
不意にマサミがそう呟いた。
「え」
「上司は結構、激しかったから。優しくされたの、初めて」
「そんなに激しかったの?」
「うん。たまに痛くてやめて欲しいと思った時とかあったから」
断れなくて、不倫。激しくて、痛い。それを2年間。
そして、男が5人もいる、親友
「もしかして」
上司がなぜ、マサミと2年も関係を続けていたか、ずっと疑問だった。
「上司と別れた時って」
断れなくて、不倫。
「結構呆気なかったんじゃない?」
激しくて、痛い。
「そして」
それを2年間。
「マサミは親友のこと」
男が5人もいる、親友。
「羨ましいと思ってた?」
マサミは何も言わなかった。ただ裸のままベッドに寝ていて、虚ろな瞳で僕を見つめているだけだった。
「ご、ごめん。変なこと聞いて」
マサミが上司と2年も不倫関係だったと聞いて、僕は「ちゃんとした不倫関係」を想像していた。妻がいるけど君が好きだ、妻とはセックスレスだから君とセックスをしたい。もちろんそんな動機は許されないと思うが、上司の中にはちゃんとしたマサミへの気持ちがあると思っていた。そんな気持ちがなければ2年も続くわけがないだろう、そう考えていた。
だから、わからなかった。マサミの体はガリガリで、性的魅力は他の女性よりは欠けてると言わざるおえない。セックス中のリアクションも全くないに等しかった。そんなマサミとのセックスに、上司はどこに魅力を感じて、2年もの関係を続けたのだろうと。
でも違った、前提から間違っていたのだ。マサミと上司は「ちゃんとした不倫関係」ではなかった。ただ性欲が溜まった時に呼ぶような、上司にとって都合のいい関係だったのだ。だから別れる時も、簡単に別れてしまえたのだ。
そして、それはおそらくマサミもわかっていたはずだ。それでもなお受け入れたのは、親友の存在があったからだろう。2年間不倫相手をしているという状況がマサミの中の女の価値を高め、それによって親友と対等でいられたのだ。
マサミは何も言わない。でも、これは合っているはずだという変な確信があった。なぜなら、僕はマサミとセックスをしたから。
「そしたら、寝ようか」
「うん」
ニートだから、女性を抱くことによって自分を肯定している僕。上司との不倫関係を続けることによって、親友と対等でいられたマサミ。僕らは、似ている。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
暗闇と布団に包まれながら、僕らは裸のまま眠りについた。互いに何も言わず、手を繋ぎながら。
翌朝、上司との関係を何気なく問うと、僕の想像した通りの返答が返ってきた。
「親友といると、男関係が全くないことでイジられることが多かったんだよね。それが嫌で。上司との関係を伝えたら、『すごい!』ってめっちゃ褒めてくれたの。それが嬉しかったから」
裸のままマサミは続ける。裸なのに、僕はもうマサミの体に触れたいとは思っていなかった。
「上司とのセックスは痛かったけど、断れなかった。関係が終わることの方が怖かった。だから我慢してたら、声を出さずにイケるようになっちゃったの」
そう笑うマサミはまるで幼い少女だった。
「そろそろ、仕事行く準備しなきゃ」
そう言ってマサミはベッドから起き上がり、服に着替えた。僕も昨日脱ぎ捨てた自分の服を拾い、身につける。
「隔たりさんは、今日仕事?」
「いや…あれ、嘘なんだ。今はニート。働いていない」
誰にも打ち明けられなかったニートであるということを、なぜかマサミには打ち明けることができた。
「そうなんだね」
マサミはそう優しく笑ってくれた。大きな前歯が出てきて、お世辞にも可愛いとは言えなかったけど、僕はその笑顔が好きだと思った。
家の前で僕はマサミと別れた。会社へと向かうマサミの後ろ姿は、相変わらず細かった。
それでも、なぜだかその歩き姿は力強く、美しくも見えた。一歩一歩、マサミは会社に向かって歩を進めている。しっかりと東京での人生を歩み始めている。
「よし」
僕は振り返り、駅へと歩き始めた。胸を張って、力強く、一歩一歩と足を前に進めて行く。僕のモノを受け入れて開かれたマサミのアソコのように、僕の新しい人生も開かれていくことを願いながら。
(文=隔たり)