ちょっと話しただけでハルナがとてもしっかりした女性だと感じた。ケイコの話では確か3歳ほど年下だったはずだが、ケイコよりもよほどしっかりしているようだった。
ケイコと私はセフレとしての付き合いだが、これまで彼女の知り合いと会ったことはもちろんなかったので、どうすれば良いのか困ってしまった。
「あのう、ハルナさん。ケイコさんから私のことはなんて聞いてるの?」
「ああ、ケイコちゃんから聞いてますよ。エッチ友達なんでしょ?」
「えーっと」
「心配しないでも大丈夫ですよ、誰にも言いませんから」
「それはどうもありがとう」
「申し訳ないんですけどぉ、このままだとケイコちゃん、動けないんで、たけしさんに助けてもらえないかなあと思ってぇ」
ちょうど仕事も終わるところだ。今なら新宿まで30分もあれば着けるだろう。
「いいけど、私が行っても大丈夫なの?」
「えっ、どうしてですか?」
「いや、なんとなくだけど」
セフレの私が迎えにいくというのは、なんだか変だなと思ったのだ。
「え〜っ、あたし会っても何もしませんよぉ」
「いや、そうじゃなくて、ハルナさんが私と会って大丈夫なのかなあって」
「あたし、ヤキモチ焼きませんからぁ。ご心配なく」
なんだか話がかみ合わないので、まあいいやと取りあえず出かけることにした。
ハルナに歌舞伎町のどこにいるか場所を聞く。どうやら裏側の大久保公園あたりにいるらしい。女性二人でよくそんなラブホテル街のど真ん中に行ったなぁと思ったが、休める場所を探してスマホの地図で大久保公園を見つけて歩いて行ったところで、ケイコが座り込んでしまったのだという。
「ちょっと待ってて、すぐ行くから」
仕事を放り出して職場を出て、新宿に向かった。
昼間は35度を超える猛暑だった今日は夕方になってもまだまだ日差しが強く、汗が吹き出してくる。よくこんな暑い日に飲み会をしていたなぁと思えるような天気だった。
新宿駅に着いて、歌舞伎町に早足で向かうと、もうシャツは汗でぐっしょりになっていた。
夕暮れになって大勢の人が出始めている歌舞伎町を抜け、大久保病院を越えて裏手の大久保公園に入ると、飲食店が屋台を出すイベントをやっていてたくさんの人が集まっていた。公園の中央にはテントとベンチが並べられていて、仕事帰りの来場者が飲んだり食事をしている。二人がどこにいるかすぐにはわからなかった。あちこち歩いて探していると、入り口からちょっと離れたベンチにそれらしき女性が二人いた。
ケイコは黒いタイトなミニスカートに原色の黄色いタンクトップという露出度の高い派手な格好でベンチに座り込んでうなだれていて、その横にハルナらしい女性が立っていた。丈の短い白いTシャツを着て、ダメージジーンズのショートパンツからはビーチサンダルを履いたスラッとした細い脚が伸びている。ストレートの髪を肩の下くらいまで伸ばし、ケイコに負けず劣らずスタイルが良い女の子だった。
街中にいるよりも、リゾート地の海辺を歩くような格好で、いくら猛暑の東京とはいえ、二人ともこんなに露出度の高い格好で歌舞伎町のど真ん中にいたらナンパされまくるだろうし、日が暮れたら危険なんじゃないかとさえ思った。まあ、さすがにイベントでこれだけ人が出ていれば襲われることはないだろうが、ちょっと心配になるほどだった。
「こんにちはぁ」
私は二人に声をかけた。
「あ、たけしさん?」
ハルナらしき女性が振り返って破顔した。
ケイコより少し背が低い160センチくらいだろうか、目がくりくりんとしていて、最近大河ドラマのヒロインに抜擢されて、CMでもよく見かける女優によく似た雰囲気の可愛らしい女性だった。ケイコがいなかったら、ちょっと声をかけてみたいと思ったに違いない。
美形のケイコと可愛らしいハルナという美女二人が露出度の高い格好で歌舞伎町の裏の怪しげな場所にいるのは、なんだか不思議な感じだった。
ハルナは私のことを品定めするように、上から下まで観察していた。怪しい男じゃないかを確認したのか、あるいは仕事帰りなのでシャツにスラックスという格好が場違いに見えたのかもしれない。
「ケイコちゃんは大丈夫?」
「う〜ん、どうなんだろう。今日はお昼間、すごく暑かったじゃないですかぁ。それでピッチが早くなっちゃってぇ、他の友達も飲み過ぎだよって注意してたんですよぉ〜」
私はケイコの横に座り、意識を確認する。身体はだらんと力が抜けていたが、熱っぽくもないし、逆に冷たくなってもいなかった。
「気持ち悪いの?」と聞くと、「ううん、らいじょ〜ぶぅ」と呂律の回らない返事をする。
最初は熱中症を心配したが、意識もちゃんとあるし、どうやら単に飲み過ぎて寝てしまっているようだった。
「困ったねぇ」
「そうなんですよぉ〜」
ハルナが私に助けを求めるように顔を近づける。
どうしたものか迷ったが、このままにしておくわけにもいかない。
「タクシーで家まで連れていこうか?」
「でもタクシーだと、いっぱいかかりますよ」
ケイコとハルナが住んでいるのは千葉に近い都内で、ラッシュアワーの今は電車ならともかくタクシーでは時間もお金も相当かかりそうだ。この状態で電車に乗せるわけにもいかないし、車中で吐かれたりしたら最悪だ。
「少し休ませれば、すぐ起きると思うんだけどなぁ。ケイコちゃん、酔ったときはいつもそうだから」
「じゃあそうしようか。こんな場所で熱中症になっちゃったらいけないし」
「そうですよねぇ」
「ちょっとホテルで休ませて、目が覚めたらちゃんと送っていくから、ハルナさんは先に帰っていいよ」
私はケイコを抱きかかえて、歩かせようとした。
「えーっ、ダメですよぉ〜。あたしも一緒に行きます。ケイコちゃんのこと心配だしぃ」
「いや、だけどホテルで休むんだよ」
「わかってますよぉ」
「別に変なことしないよ」
私がセフレと知っているハルナにはおかしな言い方だなと後から思った。
「そんなこと心配してないですよぉ」
「うーん、でもねぇ」
「早くいきましょ」
まあいいか。ずっとここで寝かせておくわけにもいかない。ちょっと休ませれば目が覚めるだろう。
ハルナに荷物を持ってもらい、私はケイコを抱えて、イベントの来場者や通行人の好奇の目にさらされながらホテル街へと歩いて行った。
スレンダーなケイコだが、酔っ払ってちゃんと歩けないので、ものすごく重く感じた。少し歩くだけでも汗が吹き出す。
途中のコンビニで水とお茶を何本か買って、ケイコといつも行くホテルに入り、フロントで三人でも入れるかと聞く。フロントの女性はケイコの様子を見て訝しんだが、酔っ払っいるだけだと伝えると黙って部屋のカギを渡してくれた。
ハルナもいるので、いつもより高級で広そうな部屋を選んだ。思った以上に広くてしっかりとしたソファと巨大なベッドが置かれていて、もっと大人数でもパーティができそうだった。きっとそうした趣向の使われ方もしているのだろう。