セックス体験談|感情の読めない無表情な女

隔たりセックスコラム「感情の読めない無表情な女」

隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。


セックス体験談|感情の読めない無表情な女の画像1
※イメージ画像:Getty Imagesより

 セックスとは愛の行為である。

 どうやったら子どもが生まれるかを知った日から、僕はずっとセックスをそう捉えていた。

 しかし、童貞を卒業しセックスをすればするほど、愛がなくてもセックスはできてしまうという事実に直面していく。

 付き合ってなくても、初対面でも、人はセックスをすることができてしまう。人はどういった理由でセックスをするのだろうか。

 大学生の頃、僕はものすごくセックスに興味を持っていた。なので、セックスができる人はいないかと、日々ネットで女性を漁っていた。

 当時はまだ、今流行っているようなマッチングアプリがない時代だった。アダルトな出会い系サイトに登録するのも怖かったので、僕は主にmixiを使っていた。

 mixiにはコミュニティ機能があり、コミュニティを登録すると、そのテーマに興味を持っている人たちと繋がることができた。僕も様々なコミュニティに登録し、そこの自己紹介スレッドにコメントしている女性たちにアプローチをかけていた。

 基本、僕はコミュニティに書き込みはしなかった。書いたって女性の方から連絡が来ると思わなかったからだ。

 おそらく、自己紹介スレッドに投稿している女性にアプローチする男は多い。その倍率をくぐり抜けて女性と仲良くなるのは難しいが、数打ちゃ当たる作戦で、僕はたくさんの女性にメッセージを送った。大学生で時間が有り余っていたから出来た作戦だった。

 その中で実際にやりとりが始まり、セックスに至った女性は何人もいた。味をしめた僕は、どっぷりとmixiでの出会いにハマっていったのだった。


「メッセージありがとうございます。こちらこそ仲良くしてください」


 とある日、いつものようにmixiのメッセージボックスを開くと、「ゆうか」という女性からメッセージが来ていた。

 プロフィールを確認してみると、プリクラが載っていた。しかし加工やスタンプが押されていて、顔がよく分からない。髪型が茶髪のロングヘアーということだけがなんとなく分かった。


「ゆうかさん、返信ありがとうございます。ゆうかさんは一人暮らしなんですか?」

「はい、そうです」


 プロフィールを見たときに、共通のコミュニティに「一人暮らし」があった。なので、その一人暮らしコミュニティから僕はメッセージを送ったと思われる。

 当時、僕は一人暮らしをしていなかった。なのになぜそのコミュニティを登録したかというと理由は簡単で、一人暮らしコミュニティで友達を募集している女は寂しがり屋が多いだろうと考えていたからだ。寂しさを感じている女性は、人肌恋しく思っており、簡単に体を許してくれるかもしれないから。


「一人暮らしは楽しいですか?」

「あんまりです」

「そうなんですね。普段は家で何されてるんですか?」

「特に何もしてません」


 質問しても、ゆうかからは簡単な返答しかこなかった。その後も、会話はなかなか弾まなかった。

 会話を広げるのにも疲れた。ゆうかのテンションが上がっているとも思えない。ゆうかはなぜ僕に返信をしたのだろうか。


「ゆうかさんはどこに住んでいますか?」

「埼玉です」

「埼玉のどこに住んでいますか?」

「〇〇です」


 ゆうかの住んでいる場所を僕は知らなかった。ここがチャンスだと思い、ちょっと冗談のノリで聞いてみる。


「僕、〇〇行ったことなくて、行ってみたかったんですよ!」

「え、何もないですよ」

「いや、ありますよ」

「え、なにがありますか?」

「ゆうかさんの家があるじゃないですか」


 こいつ何言ってるの、と引かれてしまうリスクがあったが、僕はそうメッセージを送った。もし引かれてしまったところで、僕の日常にダメージはない。僕はゆうかと直接あったの子がないのだから。ただゆうかとやり取りする前の日常に戻るだけだ。

 

「え、どういうことですか」

「そのまんまだよ」

「私の家?」

「うん。ゆうかさんの家に行ってみたかったんですよ」


 もう嫌われてもいいや、という気持ちだった。言わなければゆうかの家に行ける可能性は生まれない。もし断られたとしても冗談だと言ってしまえばいい、そう考えていた。


「そうなんですね」


 しかし、こういった男の軽ノリを女性は重く受け止めてしまうのかもしれない。この人は何を思ってるのだろうとか、私のことが好きなのだろうかとか、初めて会う人を家にあげるのってどうなのだろうかとか、断ったら何を言われるのだろうとか。男の軽々しい冗談は、そういったたくさんの悩みを女性に与えてしまうのかもしれない。


「ゆうかさんの家に行きたいなあ」


 今となればそんなことを考えることができる。でも当時は、女性とセックスしたいという気持ちでいっぱいだった。


「いいですよ」


 ゆうかからのたったの5文字の返信。この文面からは何に悩んだのかは伝わらない。はたまた悩んでいたというのは僕の妄想で、ゆうかは何も悩んでいないのかもしれない。

 けれども、もしゆうかが人からの誘いを断れないタイプだとしたら。相手の誘いを断ってしまうのは申し訳ないという罪悪感で「いいですよ」と言ってくれたことになる。

 僕はその罪悪感を利用しているということだ。断れない方に問題があるという言われ方をされてしまうこともあるが、断れないだろうと分かっていて頼む方も悪いのではないかと思う。

 しかし、そんな相手に対する気遣いや思いやりなんて、関係性の薄い人間の前では生まれない。僕とゆうかはネットでメッセージをやりとりしている”だけ”の関係だ。


「ありがとう。じゃあ、ゆうかさんちに行くね」


 電車に乗って1時間ほど、ゆうかの家の最寄駅に着いた。外に出ると雨が降っていた。

 傘をさしてゆうかを待つ。すると、黒い傘をさした茶色のニットワンピースを着ている女性が、ゆったりとした足取りでこちらに近づいてきた。


「ゆうかさん?」

「はい」

「隔たりです」

「どうも」


 眠そうな目に血色の悪い唇。ゆうかは幸の薄い顔をしていた。

 唯一の長所と言えるのか、茶色の長い髪は湿気の多い雨の日なのに美しく整っていた。きれいだ。いわゆる「後ろ姿美人」にカテゴリーされるタイプかもしれない。


「そしたら、行きますか」

「はい」


 直接会っても、ゆうかの返事はメッセージでやり取りしたような淡々とした感じだった。しかし今は顔が見えるので、幸の薄い顔のせいか、より元気がないように聞こえる。緊張してるのだろうか。


「緊張してますか?」

「…いえ」


 会話が弾まない。このままゆうかの家に行っても、楽しい出来事が起こるのだろうか。


「そしたら、家はどこにありますか?」

「あっちです」


 あっちと言うも、ゆうかはどこも指差したりしない。


「そしたらついて行くので、先歩いてもらっていいですか?」

「はい」


 ゆうかはノロノロと歩きはじめる。僕はゆうかの横に並ぶ。

 しかし、ゆうかの歩くスピードが遅い。横を歩いていると、すぐにゆうかの前に出てしまう。


「道がわからないので、ゆうかさんの後ろを歩きますね。ついていきます」

「はい」


 ゆうかの後ろに回る。ゆうかの後ろ姿を眺めながら、ノロノロと歩くゆうかについていった。

 黒い傘に茶色のニットワンピースを着たゆうか。むっちりとしたボディラインが服に浮き出ている。お尻が大きい。お世辞にも痩せてるとは言えないが、むっちりとした男受けするようなボディだ。

 黒の傘が動くと、時折ゆうかの後頭部が現れる。ロングヘアーはさらりとしており、後ろ姿はとてもきれいだ。ゆうかをバックで攻めてみたい、という欲求が湧き上がってくる。

 雨の中。初めて出会った男女が横並びではなく前後になって歩いている。会話はいっさいない。歩くスピードも遅い。とても不思議な時間を体験している気分になった。


「ここです」


 駅を出てから約20分くらい経った頃、5階建ての横長の大きなアパートの前でゆうかは足を止め、こちらを振り返ってそう言った。その顔を見て、やはりゆうかは後ろ姿美人であるなと思った。

 ゆうかの後をついていき、部屋に入る。洋室と和室が1室ずつあり、一人暮らしにしては割と大きめな部屋だった。


「部屋広いですね」

「でも駅からは遠いです」

「確かに。でも広い部屋は羨ましい」

「でも1人なんで、別に」

「別に?」

「広くてもそんなに、というか」

「うん」

「寂しいだけです」


 寂しいから僕を家に入れたんですか、という言葉を飲み込む。ゆうかが本当に寂しそうな顔をしていたら抱きしめようと思っていたが、彼女の表情は変わらないままで、何を考えているかそこからは読み取れなかった。


「そこのソファに座っていいかな?」


 ゆうかが何も言わず突っ立ていたので、僕はそう尋ねた。ゆうかがコクリとうなずいたので、僕はソファに座る。


「ゆうかさんも隣座りますか?」

「…」

「立ってるの辛くないですか?」

「…」


 呼び掛けてもゆうかは無言のままだった。そして無言のまま、その場に座った。


「あ、ごめん。ソファ座る? 俺、どくよ」


 ゆうかは何も言わず首を振る。


「でもなんか申し訳ないからさ」


 そう問いかけても、ゆうかは何も答えない。ただ何も言わずこちらを見ているだけだった。


「なんか申し訳ないから…俺も床に座るね」


 女性が床に座り、自分1人だけがソファに座っているという状況に耐えられなくなった。女性を見下しているように思えてしまうからだ。

 僕は床に座り、ゆうかと同じ目線になった。こちらの方が対等という感じがして心地良い。

 その後、床に座って色々と話しかけてみたけれど、ゆうかはほとんど無言だった。会話が苦手なのかなと思ったけれど、それにしてもほどがある。

 そんなゆうかはどんな仕事をしているのだろう。


「お仕事って、なにしてるんだっけ」

「…保育園で、給食作っています」


 確かにそれなら、あまり会話をする必要がなさそうだ。

 その後も色々と話しかけてみたが、全く会話が弾まなかった。メッセージの時と同じだ。だんだん面倒臭くなってくる。

 ゆうかと「会話」をしている感覚が全くなかった。全くないから、結局ゆうかのことがわからない。何を考えているか、なぜ僕を家にあげたのか。何を考えているか分からない人が目の前にいるのはものすごく緊張する。僕がいまから始めようとしている行為に、どんなリアクションをするか想像ができないからだ。

 僕はゆうかとの会話を諦め、体をズラして近づいた。ゆうかは動かないままだ。

 さらにもう少し近づいていく。今度は手が触れてしまいそうなほどの距離だ。しかしゆうかは何も言わず、微動だにしない。

 体を支えるために床に置かれたゆうかの手に、僕の手を重ねる。ゆうかはそれを拒まなかった。

 手を離して、ゆうかの背中に周り、後ろから抱きしめる。ダメとも、何してるのとも、ゆうかは言わなかった。普段ならこれを肯定と捉え、安心できるのだが、ゆうかは別だ。何を考えているか分からないから、抱きしめることを受け入れてくれたとしても安心はできない。

 勇気を振り絞って、少し強く抱きしめる。ゆうかは拒むことも受け入れる仕草も見せることなく、ただその場に座っているだけだった。まるで銅像だ。

 どこまでが大丈夫なのだろう。このままセックスできるのだろうか。拒まないでくれと願いながら、少しづつ攻めていく。

 後ろから頬にキス。反応はない。大丈夫そうだ。

 ゆうかの正面に移動し、唇にキス。これも反応はない。まだ大丈夫そうだ。

 そのまま舌を差し入れようと試みる。ゆうかの唇は開かない。これはダメかと急いで唇を離した。


「ご、ごめん」


 思わず謝罪の言葉が口からこぼれる。しかしゆうかはそんな僕の顔をぼーっとした表情で見るだけで、何も言わなかった。


「嫌だったら教えてください」


 そう言って僕は再びキスをする。嫌だとは言われなかった。もう一度舌を差し入れようとするも、やはり唇は開かない。ディープキスはダメだということか。ここは諦め、次に行く。

 今度は服の上から胸を触ってみる。ゆうかの反応は変わらない。大丈夫そうだ。

 そのまま少しの間、胸を揉んでみる。ゆうかは何も反応しない。胸を触れたのは嬉しいが、反応が全くないのはすこし寂しいものだ。

 次に直接胸を触ろうと思ったが、ゆうかはニットワンピースを着ている。つまり直接胸を触るには、首元から手を入れるか、膝の方から手を入れて服をまくらないと触れない。これでは無理やり感が出てしまう。

 ならば、直接胸を触るよりも、アソコを触る方がまだ難易度は低そうだ。僕はワンピースの中に手を入れる。ゆうかの反応はない。そのまま手を伸ばして、アソコを触った。


「んっ」


 触れた瞬間、ゆうかの口からそう声が漏れた。驚きと興奮を感じる。手は弾かれていない。僕の手はまだ、ゆうかのアソコに触れている。

 そのまま指でアソコを上下になぞってみた。ゆうかはタイツを履いていたので、タイツの心地良いザラザラ越しにゆうかのアソコの形を感じる。女性の体を触っているという感覚に、徐々に僕の股間も熱くなっていく。

 僕はゆうかのアソコをなぞりながら、再びキスをした。唇が重なるだけの全くエロくないキス。それでも、キスをすれば雰囲気は少しエロくなる。ここからセックスに持っていきたい。

 ゆうかは相変わらず何も反応しなかった。今の僕の行動をどう思って受け入れているのか分からない。ここから本当にセックスに持っていっていいのだろうか。そう思った時だった。


「んっ」


 ゆうかの口から再び喘ぎ声が漏れた。そして、若干ではあるが腰がムズムズと動き始める。

 そして何より、アソコをなぞってた指先に若干の熱を感じた。ゆうかのアソコが濡れ始めているのだ。

 もうここしかない。


「ごめんね」


 そう言って僕はゆうかを優しく押し倒す。そして両手をニットワンピースの中に入れて、勢いよくタイツと、そしてパンティを同時に脱がした。これは賭けだった。ゆうかに嫌がれてしまったら終わりだ。

 しかし、ゆうかはそれに対しても、何も言わなかった。


「嫌だったら教えてね」


 僕はゆうかが嫌だと言わないだろうと知りながらそう言った。脱がされることを拒まなかったのだから。再び唇を重ね、ゆうかのアソコを触る。

 ゆうかは相変わらず何も言わないが、アソコはみるみると濡れていき、僕の興奮は高まっていった。女性が濡れていると、なんでこんなに興奮するのだろう。女性が濡れるということは、男性にとってモノが大きくなるのと同じことだと、僕が思い込んでいるからかもしれない。

 ゆうかはなんだかんだで興奮しているんだ。セックスを求めているんだ。

 女性がセックスを求めて興奮するからアソコが濡れるのかどうかは分からない。自らの意思とは関係なしに、体の生理現象としてそうなってしまう可能性もあるだろう。

 しかし、僕は思いこみたかったのだ。ゆうかの体もセックスを求めていると。お互いが求め合って、セックスをするのだと。今の自分の行為を肯定するために。


「入れていい?」


 その問いかけにもゆうかが何も言わないことは、もうなんとなく分かっていた。


「ちょっと待っててね」


 僕はズボンとパンツを脱ぎ、セックスをするためにバックにいれていたコンドームを取り出し、モノに巻きつける。


「嫌だったら言ってね」


 その言葉はゆうかに嫌だと言わせないためのもの。あなたが嫌だと言わなかったから入れたんですよと、後で言える状況を作るためのもの。

 外の雨の音が強くなった。

 

「じゃあ、入れるね」


 床に寝っ転がって、何も言わずに足を開いているゆうか。茶色のニットワンピースがまくられ、荒々しく隠毛が生えた女性器が露出している。そこに僕は自分のモノをゆっくりと差し込んでいった。


「んっ」


 ゆうかは一瞬そう声を漏らしたが、表情は変わらない。だだ無表情でこちらをみていた。


「痛くない?」


 自分を守るために、肯定するために、優しさを演じる。


「腰振るね」


 僕はゆっくりと腰を振り始める。無表情な、どちらかというと冷めた表情をしているゆうかとは対照的に、アソコの中はすごく熱かった。ムッチリ体型だからか、膣肉の圧をものすごく感じる。ものすごい気持ちいい。


「ゆうか、気持ちいいよ」


 素直にそう口に出してみる。しかし、やはりゆうかは何も言わない。この目の前の女性はいま、何を思って僕のモノを受け入れているのだろうか。

 ゆうかの腰を両手で持ち、腰の振るスピードを早めていく。ニット越しに形がくっくりと出ている胸が、ユサユサと揺れる。

 僕はゆうかの顔を見ず、その顔から下のエロい景色に集中した。上半身は着衣なのに、下半身は露出している。そして互いの性器が交わり合い、卑猥な音を奏でている。もう限界だ。僕は最後に激しく腰を振り、そのままゴムの中に精を放った。

 余韻に浸ることなく、モノを抜き、ゴムを処理する。


「あ、ティッシュ」


 ゴムを処理しようとして、何気なく言った時、先ほどまで何も言わなかったゆうかが急に口を開いた。


「机の上」


 ゆうかの表情は相変わらず無表情のままだ。感情は読み取れない。


「ありがとう」


 立ち上がって机に置いてあるティッシュをとり、ゴムを処理する。


「ゴミ箱はあっち」


 ゆうかが部屋の隅に置いてあるゴミ箱を指差す。セックスが終わって急に喋り出したゆうかに僕は驚いていた。


「あ、ありがとう」


 処理したゴムをゴミ箱に捨てる。僕が帰った後、このゴミ箱にはセックスしたゴムと僕の精子が入っていることになる。その部屋で暮らすことに、ゆうかは何を思うのだろうか。そんなことなんて、やはり考えないのだろうか。

 僕がパンツとズボンを履こうとしたとき、急にゆうかが立ち上がった。ゆうかは脱ぎ捨てられたパンティとタイツには目もくれず、冷蔵庫の中から何かを取り出し、こちらに戻ってきた。


「食べる?」


 手に持っていたのは、海外のお土産でよくあるようなドライフルーツだった。


「あ、ありがとう」


 ゆうかが差し出してきたものをひとつもらう。


「これ美味しいんだよ」


 ゆうかはドライフルーツをひとつ食べた。僕も同じように口に入れる。砂糖が凝縮されたような甘さが口の中に広がった。


「美味しいね」

「でしょ?」


 ゆうかは少し目を細めて軽く笑った。初めて見る笑顔だった。その顔を見て、ほっとする。どんな理由であれ、セックスが終わった後に相手の笑顔を見れるのは心を楽にする。セックスしたことを後悔してないように見えるから。

 笑顔を見せたゆうかはパンティを履かないまま、ドライフルーツをボリボリ食べていた。その姿をみて、ゆうかのむっちりとした体型の理由がなんとなくわかった。

 僕もゆうかにドライフルーツをもらい、お互いそのまま無言で食べた。セックスの後の甘いものは美味しい。セックス後の虚無感の上に、甘い幸福感が重ねられていく。

 ドライフルーツはあっという間になくなった。


「そしたら、帰るね」

「うん」


 セックスも終わったし、ドライフルーツも食べ終わった。もうこれ以上ゆうかと一緒にいて、楽しい空間を作れる自信がなかった。

 玄関で靴を履く。そして後ろを振り向くと、ゆうかは靴を履かず、ただそこに突っ立っていた。

 そういえば、ゆうかがパンティを履いたのを見ていない。


「そしたら帰るね」


 ゆうかの後ろをついてこの家にたどり着いた。20分以上かかる道を、僕はひとりで帰れるのだろうか。

 そういえば、ゆうかの後ろ姿をみて「バックしたい」と思ったんだと、唐突に思い出す。後悔の念が少し、胸の中に広がる。

 ドライフルーツを食べ終わったあとから、ゆうかの表情はまた相変わらずの無表情に戻っている。

 しかしその表情にも慣れた。ゆうかは感情表現が苦手なのだ。自分の気持ちや言葉を発するのも、おそらく苦手なのだろう。そう思えば、なんだか可愛らしくも思えてくる。


「大丈夫だよ。ひとりで帰れるから」

「…」

「家に入れてくれてありがとう。ドライフルーツ美味しかったよ」

「…雨」

「ん?」

「…雨が嫌いなの」


 部屋の中に打ち付ける音が響くほど、外はまだ雨が降っている。


「そうなんだ。大丈夫だよ。むしろ、雨の中迎えに来てくれてありがとうね」


 セックスが嫌いじゃなくてよかった。


「じゃあ、また」


 そうして僕は扉を開けて、ゆうかの部屋を出た。

 もう僕はゆうかに会うのだろうか。もうその時が来たら、今度はちゃんとバックをしたい。

 外は激しく雨が降っている。


「今度は…晴れた日に会おうね」


 僕のその言葉と共に扉が閉まる。

 気のせいかもしれないが、僕のその言葉を聞いたゆうかの表情は、今日1日の中で1番輝いているように見えた。

(文=隔たり)

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