銀座のホステスがトルコ風呂に ~ニッポンの風俗史・戦後編#9~

経済成長から奈落の底に落ちた戦争時代


 昭和45年の大阪万博後、祭りの後の寂しさを体現するかのように人気に陰りが見え始めたのがアルサロだった。ナイトクラブや大衆キャバレーに押されたためという見方もあるが、一方で、アルサロからさらにピンク色に進化した「ピンクサロン」の台頭も大きな要因のひとつだった。

 ピンサロは明朗会計な上、当時はオスペ(手コキ)だけでホステスのレベルも決して高いと言えなかったが、焦らすだけでヌイてくれない女のコもいるアルサロとは違い、入店すれば必ずスッキリして店を出ることができた。料金的にも、庶民の嗜みは高級なトルコ風呂より、手軽に遊べるピンサロに向いていたようだ。

 そして、1970年代初頭、赤羽に『西川口流』の源流となる本番サロンが登場するのだが、それに先駆けて、中野に本サロが登場していた。その店は一見普通のピンサロだが、女の子に5000円のチップを支払うと、女の子がスカートをめくり、股間にまたがり、最後までのサービスがデキるシステムだった。

 しかし、その後吉祥寺に登場したピンサロは、本番ができる以上に驚きの店だった。なんと料金が普通のピンサロと同じで、入店すればチップも必要なくそのままブッスリすることができた。当然、行列のできる人気本サロとなったのだった。

 その後、蒲田や川崎に本サロが広まっていくのだが、そんな折、下降気味のアルサロ業界にとって決定的な事件が起きてしまった。

 昭和47年(1972)5月13日夜、大阪・千日デパートで火災が発生した。同ビル7階で営業中だったアルサロ『プレイタウン』にも煙が充満し、客34人と従業員96人が店内で死亡、22人が窓などから転落死、42人が重軽傷を負った。日本のビル火災史上最悪の大惨事となった。

 

 

 デパート内にアルサロがあったということ自体が今では驚きだが、当時は単なる風俗店というよりも「社交場」の意味合いが大きかったのかもしれない。

 そして翌年、日本がオイルショックに見舞われると、夜の街からは社用族が消え、高級クラブにも「特攻隊」と呼ばれる、お持ち帰りできるホステスが急増した。さらに、閑古鳥の鳴く銀座の高級クラブから、川崎や雄琴のトルコ風呂に移って行くホステスが急増したのだった。

 そんな夜の飲食店では、店内で盆踊りイベントを始めるキャバレーや、ストリップショーを開催するクラブも現れた。さらに、本家ストリッップ劇場では、トクダシがすでに定番になると、究極の全裸芸「生板ショー」の時代へ移っていった。

 ピンサロの中にも、客離れを防ぐために本サロになった店も現れ、まさに恥も外聞もなく生き残りをかけた必死の営業戦略の時代に突入していった。

 一方、トルコ風呂ではすでにボディー洗い、全身リップ、マットといったサービスが定着し、「フルコース」が完成していた。悩みといえば、使用済みのコンドームの処理方法だった。

 立ち入り検査の際にコンドームが見つかれば摘発は必至。そのため、各店様々な方法で回収しては、こっそり深夜に焼却したり、スタッフや女の子たちが持って帰ったり、中には常連客には自分で使用したコンドームを持ち帰ってもらった店もあったようだ。

 


 横井庄一さんも泡踊り体験

 昭和47年(1972)にグアム島から生還した旧日本兵の横井庄一さんが、帰国の2年後に雄琴で初のトルコ風呂体験したという記事をみつけた。その記事だけで他に調べても見つからないので裏は取れていないが、ジャングルで28年間密林生活をしてきた横井さんは初めて体験したトルコ風呂に、「人間として想像もつかない仕事だ」と、感想を漏らしたという。ひょっとしたら、その時横井さんはすでに既婚者だったため、公になっていないのかもしれない(笑)。

 

 そしてこの頃、増えていたのが外国人風俗嬢、いわゆる『ジャパゆきさん』である。その理由は、東京オリンピックの前年に、日本政府が民間人の海外渡航を解禁。海外からの来日も自由になったことから、”ホステス”として東南アジアや中南米から女の子がやってくるようになったからだ。

 もちろんそれは、店と女の子を仲介する業者が企んだ人身売買の一端だった。女のコたちはパスポートを取り上げられ、法外な仲介金や渡航費用、生活費、意味不明の費用など多額の前借金で縛り付けられ、その借金を全額返済するまで年季奉公させられるのだった。

 しかし、彼女たちは逞しかった。自分が置かれたそんな状況がわかっても、自分の国では1カ月分のサラリーを、日本では2、3日で稼げてしまうことから、「一生懸命働いて早く借金返して、国の両親に家を建ててあげたい」と、健気に頑張る子が多かった。また、借金を返済し晴れて自由の身になっても国には帰らず、日本に残って働く女性も少なくはなかった。

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