隔たりセックスコラム「挿入手前までの関係:前編」
隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。 |
やや右に曲がりながらも、天に突き上げるようにまっすぐ勃ったモノに女性の後頭部が被さる。
後頭部、モノ、後頭部、モノ。そんな景色が、女性の頭が上下するたびに繰り返される。何度も後頭部が被されていくと、現れたモノはだんだんと女性の唾液でテカり始めていた。その規則正しい上下運動に、僕はただ見とれている。
ベッドを二つ並べてしまったら、部屋を埋め尽くしてしまいそうなほど狭いワンルーム。その半分を支配している白を基調とした一般的なシングルベッドに、僕は足を広げて腰掛けていた。
その広げた足の間には、この部屋に住んでいる真央(仮)がちょこんと座っている。いま、僕には真央の後頭部しか見えない。彼女は僕のモノを規則正しいテンポでしゃぶっている。
「真央、こっち向いて」
「ん?」
声をかけると、真央はモノを咥えたまま上目遣いでこちらを見た。フェラをしながらの上目遣いは、女性の表情の中で一番エロいと思う。どんなに容姿が優れていない女性でも、フェラ中に上目遣いをすれば、全員可愛く見えてしまうと思うのは僕だけだろうか。
「真央、もう我慢できない」
僕は真央の肩に手を置いて、そっと口を離させた。唾液まみれになったモノは少し右に傾きながらも、しっかりと勃っている。まるで、何千年も生え続けている大木みたいだ。早くこれを、真央の中に入れたい。
「エッチしよ?」
僕がそう声をかけると、真央は下を向いた。そして一言だけ、消えてしまいそうなほどのか弱い声で、こう呟いた。
「エッチは、しない」
「セックスできるんじゃないか」という期待が確信に変わったときの高揚感はたまらない。そして、「セックスできるわけがない」と思っていた女性とセックスできると決まったときは、セックスの本番以上に興奮してしまう。
しかし、反対に「セックスができる」と思っていたのに、できないときだってある。そのときの悲しさは、賢者モードをはるかに越えて悲しい。
☆ ☆ ☆
真央と出会ったのは、僕が大学3年生のときだった。彼女と別れたばかりの僕を見て友人が誘ってくれた合コンの席に、真央はいた。
真央の第一印象は、とても目が細くて大人しい子、だった。
飲み会が始まっても真央はあまりしゃべらなかった。端っこの席に座り、細い目をさらに細めながら、みんなの話をうんうんと聞いているだけで、自ら話し出すことはなかった。そんな子だから、僕は真央のことなんて全く眼中になかった。
飲み会は盛り上がってるとも盛り上がってないとも言えるくらい、とても微妙なものだった。友人が僕を指差しながら、
「こいつ別れたばっかなんだよ。慰めてあげて?」
という話しかしないので、僕は途中から面倒臭くなっていた。
そんな僕に愛想をつかしたのか、友人は僕に構うことをやめ、真央以外のまだノリが良いと言える女の子たちと酒を飲み交わし始めた。
その流れによって初めは真ん中の席に座っていた僕は、追いやられるように端の席に移動した。その席の目の前にいたのが、真央だ。
「隔たりさんは、何か映画とか見られますか?」
飲み会が始まって約1時間半。それが真央との初めての会話だった。
「え、あ、見ますよ」
「どんなの見ますか?」
「うーん。最近はミステリーが多いかな」
僕は最近見た、洋画の有名なミステリー映画の名前を挙げた。
「え!? わたしもそれめっちゃ好きなんです!」
真央は目を大きく開いて、今日初めてと言っていいほどの笑顔を見せた。目がキラキラと輝いているように見えて、なんだか思ったよりも可愛い子なんじゃないかと、その笑顔にドキドキしてしまった。
そこから僕らは会が終わるまで、ひたすら映画について話し込んだ。大きな盛り上がりに欠けた今回の合コンは2次会に流れることなく、当たり前のように1次会で解散となったが、僕と真央はしっかりとラインを交換した。そして、合コン以後もずっとラインをする仲になった。
真央とのラインは、最近気になる映画や互いの大学の話など、他愛もない内容だった。真央からくるラインの文面は優しくて、性格の良さが溢れて出ていた。互いにデートに誘ったり、エロい内容の話題になることは一度もなかった。
そうやって連絡を取り合って1ヶ月が経ち、ついに一緒に映画を見ることになった。
待ち合わせ場所に現れた真央は、真っ赤なロングワンピースを着ていた。合コンの時の大人しい印象や、ラインの文面から想像していた真央とかけ離れていたので、僕は思わず驚いてしまった。なんてセクシーなんだと。
しかしよく見ると、すらっとしたスタイルの真央にロングワンピースはとっても似合っていた。パッと見たときは赤色なんて派手だなと思ったが、意外と大人しめな真央の表情との良い対比になっている。真央の顔は主張が弱いので、もし地味な服を着ていたとしたら全体的に地味になっていたかもしれない。真っ赤なワンピースを着ていても嫌な印象は全くしなかった。
「赤い洋服似合ってるね」
「本当? ありがとう」
洋服を褒めると、真央は細い目をさらにくしゃっと細くさせて笑った。赤い服って本当にセクシーだと思う。刺激的な色のせいか、真央を見るたびなんだかムラムラしてしまった。
真央と見た映画は、いま流行りの恋愛映画だった。互いにミステリーが好きという話題で盛り上がったので、始めはミステリーを見るのかと思ったが、真央が「これを見たい」というので恋愛映画を見ることになった。
映画の内容はよくある恋愛ものだったが、ときおり挟まれる抱きしめ合うシーンやキスシーンに、僕はドキドキしてしまった。彼女と別れてからキスはご無沙汰だったので、映画とはいえ、キスシーンを見るだけで興奮してしまう。真央はこのキスシーンを見てどう思ったのだろうと、そういったピンク色の妄想で頭がいっぱいになり、映画の内容はあまり入ってこなかった。
映画を観終わったあと、ご飯屋さんに入って感想を話し合った。
「意外と面白かったね」
「そうだね」
「どのシーンが印象に残ってる?」
僕は素直に「キスシーン」と答えた。その回答を聞いた真央は、「確かによかったね」と照れた表情を見せた。
ご飯を食べ終わり、なんだか帰るのも惜しかったので、僕は「公園でも散歩しない?」と提案した。時間は21時を回っていたが、真央は時計を見ることなく「いいよ」と答えた。公園に誘ったのは、映画のキスシーンの舞台が公園だったからだ。
僕と真央はご飯屋さんを出て、近くの公園へと向かう。その公園は駅から少し離れたところにあった。駅前の喧騒から離れると、住宅街に差し掛かった。静かな街の中で真央とふたりで歩いている。まるでふたりきりで個室にでも入ったような静けさに、期待がどんどんと膨らんでいく。
「なんだか静かだね」
そう呟いて真央の方を見る。静かな住宅街の中で、真央の赤いロングワンピース姿は異質だった。静けさとのギャップで、思わず股間がうずいてしまう。
「そうだね」
真央は僕の方を見て軽く微笑んだ。後ろから街灯の光に照らされていて、真央の顔がよく確認できない。しかし、その表情は初めて出会ったときよりも、さっき明るい店内の中で見たときよりも、なんだか妖艶に見えた。大人の色気を感じる。少し厚い唇は潤っているようにも見えた。
住宅街を5分ほど歩くと、目的の公園にたどり着いた。その公園は小さな公園ではなく、スポーツができる広場があったり、かくれんぼができるほど遊具がたくさんある大きな公園だった。大きな木が何本も生え揃っていて、空は木々に覆われていた。外から見ると公園ではなくて、まるで森みたいだ。
「なんかすごいね」
「ね、大きい公園」
「そしたら、中を散歩してみようか」
「うん、わかった」
公園に入るとすぐに小さな幅の階段があり、そこを登ると広場に出た。広場にはブランコや公衆トイレがあった。その広場の横に公園の奥まで進める緩やかな坂道があったので、僕らはその道を歩くことにした。夜遅いせいか、公園には全く人の気配がなかった。
「静かだね」
「うん、そうだね」
「なんだか不気味かも」
真央は体の前で両手を組み、怯えるような仕草を見せて笑った。こうやっておちゃらける一面もあるのだと、僕は微笑ましくなった。
「真央、それ怖がってるの?」
「うん、怖がってる」
真央は再び体を震わせる真似をする。目が合って、なんだかおかしくなって、ふたりで声をあげて笑った。静かな公園に、僕らの笑い声はよく響いた。
見上げると、木の葉の間から月が見える。その光が葉の間をぬってバラバラに降り注ぎ、道を照らしていた。その道を僕と真央は笑いながら、ときに黙りながら歩いていく。公園の奥に進むたびに光は薄くなり、先ほどまで冗談で言っていた不気味さが、本格的に漂い始めていた。
「なんか、本格的に暗くなってきたね」
「確かに、ちょっと怖いかも」
真央はさっきみたいに、寒さに耐えるかのように腕を前に組んで体を縮ませている。
「そしたら、戻ろうか」
「そうだね」
僕らは公園の奥まで行くのをやめて、来た道を再び戻ることに決めた。真央が戻ろうと振り返ったとき、ロングスカートがひらりと舞い、僕の手に触れた。
「あっ」
急に真央という存在に触れた感覚に、思わず声が漏れる。
「ん、どうしたの?」
「いや、スカートが当たったなって」
「あ、ごめん」
「いや、全然大丈夫なんだけど…」
手の甲に真央のスカートの生地の感触が残っている。さっき見た恋愛映画、公園でのキスシーン、真っ暗な公園、真央とふたりきり。もっと真央に触れてみたいという欲望が、どんどん膨らんでいく。
「あのさ、真央」
僕は真央の目を見た。真央の目は相変わらず細いが、いま僕を見つめているその目は微笑みに溢れていた。やっぱり優しい子なんだな。その優しさに、期待を、希望を、抱きたくなってしまう。
「あのさ、手…」
僕が「手」と発したと同時に、真央が「手?」と自分の手のひらを見つめた。まだ言葉を言い切ってないのに、自分の手を見つめる純粋さがなんだか愛おしくて、緊張していた言葉がすんなりと口から出た。
「真央、手、繋ごう」
僕はそう言って自分の手を差し出す。真央は「えっ」と戸惑いながらも、緊張した面持ちで僕の手に触れた。
「暗いから、迷子にならないように手を繋がなきゃね」
添えられた真央の手の指の間に、僕は自分の指を順々に絡めていく。
「迷子って、私たちふたりきりじゃん」
迷子という言葉を使ったのを不思議に思ったのか、真央が笑う。僕と真央の手はもうすでに、恋人のように繋がれていた。
「これで迷子にならないね。さあ戻ろうか」
逃さないように、真央の手をぎゅっと強く握る。同じように、真央もぎゅっと握り返してくれた。
真央の手の平から伝わる体温が暖かい。その暖かさが僕の体の中に侵入していき、体が熱くなっていく。女性と手を繋ぐことは、自分を受け入れてもらえたような気がして嬉しい。真央は僕のことを少なからず好意的に思っているはずだと、信じることができる。
手をしっかりと繋ぎながら、来た道を戻って行く。夜の風が吹き、木々が揺れる。ぶつかり合った葉と葉がカシャカシャと音を奏でる。夜中に奏でられたその音は不気味だが、真央と手を繋いでいるから怖くない。
ふたりきりの、ふたりだけの、不思議な空間。
「あ、こんなところにベンチがある」
道を半分戻ったところで、不意に真央がそう口にした。
真央が見ている方に目線をやると、そこにはベンチがあった。そのベンチは3段ほどの小さな階段を登ったところにあり、草で隠れていたので、意識して横を見ないと気づかない。
「座る?」
公園に行こうと自ら言い出したが、そこに行って何をするかということは考えていなかった。恋愛映画のようにできればキスがしたいな、という淡い期待はあったが、そこに持っていくまでのプランは全く思いついていなかった。
そして正直なところ、キスよりも真央とまだサヨウナラをしたくないという気持ちが強かった。
「うん、座ろうか」
僕と真央は小さな階段を登り、ベンチに座った。道の方から見たら、下半身は植木で隠れている。その隠れているという状況に、僕の股間はどうしようもなくうずき始める。
「なんか不思議な空間だね」
「そうだね」
僕らはそう言葉を交わしたきり、そのあと何も言葉を発しなかった。木々が揺れ、車の走る音が聞こえる。ときおり、目の前の道を人が通ったが、こちらを見ることはなかった。
横の真央も僕と同じように正面を眺めている。足をブラブラと揺らしたり、スカートの裾を直したりはするが、言葉を発さない。
その何気無い仕草を見ていると、真央と目があった。僕はなんだか恥ずかしくなって、視線を下へとそらす。真央の唇は月明かりに照らされ、美しく光っていた。
キスをしたい。その衝動が、僕の身体中を駆け巡る。
「真央」
「ん?」
真央が首をかしげる。細い目が印象的な真央は、お世辞にも可愛いとは言えない。しかし、穏やかな雰囲気や優しい声が僕の心を引きつける。
そして、今は夜中だ。
セックスをするときに部屋の照明を暗くすることがある。それは女の人が体を見られるのが恥ずかしいというのもあるだろうが、男側からしたら、可愛いとは言えない女の子の顔を見ないためとも言えることができる。顔を見てしまうと、萎えてしまう恐れがあるからだ。
真っ赤なロングワンピースや、少し濃い色をした赤色の唇が暗闇の中に浮かび上がっている。そのせいか、暗闇という状態の後押しによる真央の表情は美しかった。長い黒髪が、艶のある雰囲気をより醸し出している。僕はこの真央を抱きたい、と無性に思った。
「そう言えばさ」
僕は意を決して口を開いた。いま、真央とキスがしたいから。
「今日見た映画にさ、公園でのキスシーンがあったよね」
真央の目をじっと見つめる。今度は恥ずかしさで目を逸らさないように、ケモノ感が出ないように、優しい眼差しを向ける。
「うん」と真央は軽く頷く。「あったね」と呟いた真央の声は優しく、そして何かの意味を含んでいるようにも聞こえた。
同じことを考えていて欲しい、と心から願う。
「だから、俺らもしようか」
真央の背中に腕を回し、僕はゆっくりと顔を近づける。真央は動かない。そのまま、僕と真央の唇は優しく重なった。真央の唇は柔らかくて、大人の口紅の味がした。
重なり合った唇を、優しく絆創膏をはがすように離していく。唇同士が離れると、真央は僕の唇を見つめていた。いつものように目は細かったが、その目はトロンとしていて、僕は目が離せなかった。
互いに無言のまま、もう一度唇を重ねる。今度は僕だけでなく、真央の方からも顔を近づけてきた。唇同士が触れる。今度は優しく重なるキスではない。隠された互いの気持ちがむき出しになったかのように、唇がぶつかり合う。
「ちゅっ」
という音が鳴った。その音を皮切りに、僕は真央の上唇を挟む。同じように、真央も僕の下唇を挟んだ。
「あむっ」
そこから、僕らは互いの唇を味わいあった。唇を挟み、舐め、重ね、ときに撫でるように、ときに性欲をぶつけるように、キスを繰り返す。いつしか、キスをしながらお互いの手を強く握り合っていた。
新たに出会った女性とする初めてのキスは何よりも興奮する。キスの仕方も、キスの味も全員違う。初めて味わうものは、なんだって興奮する。ただ唇を重ねるというだけなのに、その女性との信頼が生まれてくるような気もしてしまう。
こんなにも、こんなにも真央に気持ちを持っていかれるなんて、初めて出会った頃は一度も思わなかった。
「キス、しちゃったね」
「うん。しちゃった」
初めの頃はだた趣味があう、という程度の印象だった。
別れたばかりで彼女がいなくて暇だから。女の子と遊んでいると自分が価値のある男のように思えるから。そういった理由で、僕は真央と映画を見に行った。
なのに、ただ手を繋ぐだけで、キスをするだけで、心が奪われていく。どうしても、その先を体験したいと思ってしまう。僕は真央の体に触れたくて触れたくて、たまらなかった。
そこから僕らは、無言で何度もキスを交わし合った。舌も絡め始め、キスはどんどん深くなっていく。舌の表皮のザラザラした部分が絡まり合うと、胸がキュンと締め付けられ、股間が熱くなった。「はぁはぁ」と呼吸も荒くなり、僕らは公園にいることを忘れ、互いの唇を貪り合った。
触りたい、触りたい、触りたい。
欲望が、性欲が、どんどん膨らんでいく。しかし、僕の左手は真央の右手と繋がれており、右手は真央の背中に回されている。だから、真央の背中しか撫でることができない。胸を、触りたいのに。
すると、股間の上に何かが置かれるような感触があった。真央と激しくキスを交わしているので、何が置かれたかはわからない。その置かれたものは、僕の少し大きくなったモノに沿うように、前後に動いていく。
それは真央の左手だった。
僕は驚いた。真央が自ら男性の股間を撫でるような女性だなんて、1ミリも思わなかったからだ。むしろ、キスができているだけで奇跡だと思っている。真央のような大人しそうに見える子が、自らモノを触るなんて1ミリも想像できない。
むしろ、今まで女性の方からモノを触ってくれた経験なんて、どれくらいあるのだろうか。いつも触って欲しいと待っていたが、その願いが叶うことなんて全くなかった。だから、仕方なく「触って」と言うことが多かった。叶わなかった願いは、叶わなければ叶わないほど膨らんでいく。
いつかは自らモノを触ってくるような女性と出会いたい。ずっとそう思っていたのだが。
それがまさか真央になるなんて、思ってもいなかった。真央は目をつぶりながらキスに没頭し、そして僕の固くなったモノをズボンの上から掴むようにシゴいている。
「真央、触りたかったの?」
僕は思わずキスをやめてそう聞いた。真央は何も言わずトロンとした表情をしている。そして、体をこちらにもたれかかるように寄せて、キスをねだってきた。
「キスしたいの?」
真央はこくりと頷く。再び深いキスが始まると、真央は繋いでいた手を離して、右手で僕の股間をしごき始めた。
直接触って欲しい、直接触って欲しい、直接触って欲しい。
真央の右手が前後するにつられ、ズボンを破きそうなほどモノは大きくなった。それと同時に、早くズボンを脱いでモノを解放し、直接真央に触って欲しいという欲望が膨らんでいく。
しかし、ここは外、そして初めて来た公園だ。モノを出すにはそれなりのリスクがある。直接触って欲しいという願望を口にすることは、なかなかできなかった。
けれど、真央に触って欲しい。なんならセックスがしたい。
「ねえ、真央」
「ん?」
キスをやめても真央は股間を撫で続けている。この状況は確実にセックスまでいけるだろう。そう願いを込めて、問いかける。
「よかったら、これからホテルいかない?」
すると、真央の手がピタリと止まった。膨らんだ股間の上に手が重ねられたまま、真央はじっとしている。
「真央?」
顔を覗き込むようにそう問いかけると、真央は股間から手を離した。そしていつものように目を細めながら、
「ホテルは今度会ったときでいいかな?」
と言い切った。
「今度?」
「うん。今日は、帰ろう」
そう言い切る真央の声は力強かった。
今までは柔らかく、僕の言うことだけを聞いていた真央。股間に触れるときと、そしていま、ホテルを断るときだけは彼女自身の意思が強く表れていた。
本当はこのままホテルに行って泊まりたい。でも、僕には真央のその言葉を覆せるような言い訳なんてなかった。
「そっか。そしたら今日は帰ろうか」
けれども、ホテルに行くこと自体を断られたわけではない。真央は「今度」と口にした。つまり、次に会うときはセックスできるということだ。
セックスができる。その確約を得れただけで十分だ。なんなら、セックスをする時よりも、セックスができると確信したときの方が嬉しいから。
「ごめんね。今日は家に帰る」
真央がそう言ったので、僕はベンチから立ち上がろうとした。
すると、真央が僕の手を握った。真央は立っていない。
「え?」
そう声が漏れた瞬間、真央は僕を自らの方へと引いた。その動きに合わせて、僕と真央の唇が再び重なる。
その勢いのまま、上から被せるように重なった唇の中から舌を出し、真央の口の中へと深く絡ませていく。真央は少し顎を上げ、まるで餌を欲しがる魚のような姿で、僕のキスを受け入れた。
今日はホテルに行かない。けれども、キスはしたい。真央はキスが好きなのだろうか。
僕が立ち、真央が座った状態でのキスをしばらく続ける。すると、再び真央は僕の股間を撫で始めた。興奮してしまった僕は手を伸ばし、真央の胸に触る。真央は抵抗せずにそれを受け入れた。
今日はホテルに行かない。けれども、胸を触るのは大丈夫。
僕は真央の中の基準がわからなかった。そう思いながら、真央の胸を服の上から揉む。Cカップほどの小さくも大きくもない胸は、僕の手のひらにしっかりと収まった。その手で円で描くように揉むたびに、真央の口から吐息が漏れる。
「あん…はあぁ…」
帰ろうと言ったのに、キスを求める。吐息を漏らすのに、ホテルには行かない。
僕は股間を触られ、胸を触り、舌は卑猥に交わっている。けれども、ホテルには行かない。膨れ上がる欲望の落とし所がわからなかった。
互いを貪るようなキスを続けていると、突然、誰かの話し声が聞こえた。びっくりした僕らは急いで唇を離し、何事もなかったように離れる。どうやら、道の向こうから何人か歩いて来ているようだった。
「そしたら、帰ろうか」
「うん」
いま思えば、キスをしている間に誰も通らなかったのが奇跡だ。僕は大きくなったモノを、外からわからないようになんとかパンツの中に収め歩き出す。真央も何事もなかったように、赤いロングワンピースをひらつかせる。
「今度って、いつ会えるかな?」
「…わからないから、また連絡するね」
夜の公園の道を歩いていく。ホテルに行く日を早く決めたかったが、真央は「また連絡するね」と言った。本当にホテルに行けるのだろうか、という不安が襲いかかってくる。そのホテルだけは、なんとしてでも必ず行きたい。
「そしたらさ、手を繋いでいい?」
「うん、いいよ」
少しでもホテルに行ける可能性を感じていたい。手を繋いでいれば、なんだかホテルへの道へと繋がるような気がした。手の平から伝わる体温は暖かい。早くこの手に直接しごかれたい、と思う。
公園を抜け、住宅街に出て、駅にたどり着いた。駅に着いても僕らはしっかりと、いや、僕だけはしっかりと真央の手を握っていた。まるで、今日のキスだけで終わらしたくないというふうに。
「そしたら気をつけて帰ってね」
お互い違う電車に乗って帰るので、改札前でお別れだ。
「うん、今日はありがとう。隔たりも気をつけてね」
僕らは手を離し、軽く手を振り合う。
「今度ホテ…いや、会えるのめっちゃ楽しみにしてるね」
「ホテルに行くの楽しみにしてるね」とは言い切れなかった。なぜなら、ホテルと口に出そうとしたとき、真央がふと悲しげな表情をしていたからだ。
「うん。私も会えるの楽しみにしてる」
そう言葉を交わして、僕らはそれぞれの帰路に着いた。
そして、その日から2日後、やっと真央からのラインが届いた。
「来週の月曜日なら会えそうです」
そのラインに僕はすぐさま返信をする。
「その日は俺も大丈夫だよ。そしたら会おうか」
少し時間をおいて真央から返信が来た。
「うん。じゃあ、その日でお願いします。場所は〇〇駅でいいかな?」
真央が指定してきたのは、神奈川のとある駅だった。そこは真央の最寄り駅だった。
「うん、大丈夫だよ」
真央がどのような意図で自分の最寄り駅を指定したのかわからないけど、セックスができるのであればどこだって行ける。
そして、僕は一番重要な問題を、何事もないようにさらっと送った。
「その駅にもホテルあるもんね。真央とホテルでゆっくりできるの楽しみにしている」
真央が実家暮らしなのか、一人暮らしなのか僕は知らない。
真央の家に行けるのかもしれないという期待を抱きながらも、やはりセックスの確証が欲しい。だから僕は「ホテル」という言葉を真央に送ったのだ。
すると、真央からこう返信があった。
「私もホテルでゆっくりできるの楽しみにしてるね」
セックスをする瞬間よりも、セックスの確約を得れたときの方がテンションが上がる。それは相手がどんな人だろうと変わらない。
「ありがとう。そしたら前日にまた連絡するね」
そう返信をして、僕はラインを閉じた。そして、ベッドに寝転がる。
真央とセックスができる。
赤のロングワンピースを着ていた真央。目をつぶると、その赤色のシルエットだけが鮮明に浮かび上がる。
僕は浮かび上がったその女性とのセックスを妄想しながら、深い眠りについた。
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目が覚めると、頭に鈍い痛みが走った。脳を締め付けるようなギンギンとした痛みに、体を起き上がらせることができない。その痛みが治るまでうずくまっていようと体勢を変えると、今度は吐き気に襲われた。目を強くつむり、その痛みを忘れるようにと、再び眠りにつく。
(文=隔たり)