いつもよりちょっとだけ高級なラブホテルに入る。部屋に入った時も正直、半信半疑だった。
ケイコのコートを脱がしてハンガーにかける。薄紫色のセーターにスキニーのジーンズを履いていて、脱いだらきっとスタイルがいいんだろうなと思った。照明の下で見ると、茶髪ではあるがもともと明るい色の髪質なのだろう。薄化粧に近く、派手そうに見えたのはきれいな顔立ちのせいだったのかもしれない。
ソファに並んで座ってコップにチューハイを注ぎ、「かんぱーい」と言ってぐいっと飲み干すと、ケイコは「おいしい」と笑顔になった。
「お酒が好きなんだね」
「うん、大好き。バイトの時は、あまり飲めないから、家に帰って飲むくらいだけど」
「クラブで働いてるんだっけ」
「うん、バイトだけどね」
クラブと言っていたので銀座のクラブのようなお店なのかと思っていたが、ケイコがバイトをしているのは、お酒を飲みながら音楽を聴かせるライブハウスのような店で、そこで裏方やホールの仕事をしているようだった。
「ふーん。ケイコちゃんみたいにきれいだったら、バイト先でいっぱい出会いがあるんじゃないの? 口説かれるでしょう」
「ナンパはいつもされるんだけどねぇ。あたし、チャラい男性は苦手なの」
「そうなんだ…」
出会い系サイトで会うのもナンパと変わらないんじゃないかなあと思いつつも聞いた。
「でも同年代の人との出会いはあるんでしょ?」
「あたし、結婚願望がないんだよねぇ。だから同年代の男の人って興味ないの」
「ああ、そう。今いくつなんだっけ?」
「ちょうど30になったところ」
出会い系サイトのプロフィールは20代後半となっていたが、目の前にいるケイコは派手めの雰囲気もあって20代半ばくらいにしか見えなかった。
「落ち着いた年上の人と一緒にいると心地いいんだけど、そういう男性って知り合いになれないし、寄って来るのはちょいワル親父みたいなギラギラした人ばっかりなの」
「まあ、そういうお店で口説いてくるのはそんな親父ばっかりだろうね」
女性を口説くことに関しては私も他人のことを言えないが、最近はそうしたクラブからは足が遠のいていた。
「たけしさんって、そういうクラブに行ったりするの?」
「ううん。昔行ったけど、今は行かないよ。音がうるさいし、照明も暗すぎるしねぇ」
「だよねぇ」
「女性を口説くなら、普通にこうやって口説くよ」
そう言って、ケイコにキスをした。
ケイコは嫌がることなく、そのままチュッとキスを返してくる。
「それで出会い系サイトで探していたんだ」
「だってぇ、エッチをしたくなることもあるけど、誰でもいいってわけじゃないんだよ」
「私で大丈夫だったの?」
「うん。いろいろメールでお話しして、たけしさんなら会っても大丈夫かなあと思ったから」
「それはよかった」
「うん、なんか落ち着く」
ケイコはそう言って私の肩に頭を乗せる。かすかに香水が匂った。