美咲かんなエッセイ:ふしだらな気持ち「夏が来れば思い出す」

 美しい花には棘がある――。誰もが備える多面性を表現したこの言葉。特に男を惑わす美女には危険な一面がある、という男の自戒的な意味を表しているわけだが…。勝手に舞い上がって棘が刺さってしまうのは男のせいとも言える。美女には美女の悩みがあるものだ。AV女優・美咲かんなも悩み多き美女のようで…。美しくもどこか陰のある彼女が、素直な気持ちをふしだらに綴る。

 

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美咲かんな

 

美咲かんなエッセイ:ふしだらな気持ち「夏が来れば思い出す」

 犬の散歩に出かけた際、近所にひまわりが咲いているのを見つけた。

 今年は花見もせず、季節というものに鈍感であったが、犬の散歩は昼から夜へと変わり、半袖短パンでも寒くはない。ニュース番組では夏日だとか梅雨入りだとか、そんな話をしている。気づけば夏至もすぐそこまできていたのだ。

 

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 夏という季節は私にとって長年敵であった。

 暑くてとても快適に過ごせやしないというのに、やれ海だ祭りだと陽気さを増した人々はこぞって外へ出る。コミュニケーション能力が低い私にとって、人々が開放的になり集まりというのは特別喜ばしいことではない。

 日頃から「3密」を避けるように心がけているのだが、暑い時期にはどうしても野外に人が増え、そうなると自然と何かしらのコミュニケーションをとらざるを得ない機会も増えるのだ。

 私が夏を好きになれなかった理由は単純で、暑さが苦手だったからである。夏の暑さは暴力的で適当な対策ができないと命を落としてしまう。汗染みが目立つ服は避ける必要があるし、メイクだって崩れやすい。

 暑いだけで体力は奪われてしまうし、学生の頃はクーラーのついてない教室でぐったりしながら授業を受けるのがとにかく苦痛で、そのせいで私は勉強嫌いになったのでは?と思うくらいだ。

 もちろん私の学力が低かったのも、青春を謳歌できなかったのも別の理由だが、エアコンがないところにほぼ毎日何時間も滞在するというのはやはりストレスであった。

 そんな私にも「夏ってイイかも!」と思っていた時代が存在する。数年前、現時点では最初で最後といえる本格的な男女交際というものを体験した。

 それまでも彼氏というものを作ったことはあったが、学校の帰り道を共に歩くのが関の山で実績と呼べるほどの男女交際はしてこなかったので、唯一といっても過言ではないだろう。

 それは真面目で無口、良くも悪くも欲のない人だった。その彼に告白され、なんとなく付き合いだしたのが夏だったのである。

 彼が暮らしていた十畳ほどの部屋はエアコンがなく、冬は凍えるほど寒く夏は気が滅入るほど暑かった。「雨ニモマケズ、風ニモマケズ、雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ」でお馴染みの宮沢賢治の伝記が幼い頃の愛読書だった私は、金のかかる趣味もなく酒も女もやらず夏の暑さにも負けていない飄々とした彼の生きざまが好きだった。

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