美しい花には棘がある――。誰もが備える多面性を表現したこの言葉。特に男を惑わす美女には危険な一面がある、という男の自戒的な意味を表しているわけだが…。勝手に舞い上がって棘が刺さってしまうのは男のせいとも言える。美女は美女で悩むことも多いのだ。AV女優・美咲かんなも悩み多き美女のようで…。美しくもどこか陰のある彼女が、素直な気持ちをふしだらに綴る。
美咲かんなエッセイ:ふしだらな気持ち「花と女優」
君たち、花は好きだろうか? 私は花が好きだ。
「人それぞれ好みはあるけどどれもみんなきれいだね」というわけで、もちろん好みはあるし、花か団子かどちらかといわれたら食い意地が勝ちそうになってしまうが、糖質と単価を考えて花を選ぶ。私の好きさ加減は、それぐらいと認識していただきたい。
女性は花が好きだといわれることもあるし、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」や「大和撫子」のような言葉があるように、女性を花に例える表現も数多い。官能的な表現としても女性の体を蕾や花弁に例えられることもあり、花と女性は切っても切れない関係のように思える。
もし自分が花に例えられるとしたら何になるだろうか。
花言葉を調べてみたり、華やかな姿かたちに思いを馳せてみたりするもしっくりこない。
「職場の花」なんて言葉もあるが、そもそも私はその場がパッと華やぐような器量よしではないし、性格が明るいわけでもないのだ。強いて例えるなら野に咲く花か。いや、もはや苔か、苔むす岩といった表現がしっくりくる。
そんな花にも例えられぬような外見と内面で、よくこのような華やかで競争の激しい世界に入ってきたな…と思われそうだが、これにはいくつか理由がある。
もちろん裕福ではない家庭に一筋の光をという期待もあったが、毎日同じ職場に通わなくていいとか家族で過ごす時間を確保しやすいとか、地味で細々した理由も沢山あった。まあ一番の理由はやはり、自分らしく働いて自分を好きになりたい、自信をもちたいというところである。
社会的にまだまだ認められていないと感じることも多く、オンからオフまでフィジカル、メンタル共に苦しい場面は多々ある。「楽をして稼いでいる」とわざわざご丁寧に批判してくださる方はたまにいるが、この仕事を「楽」の一言で片づけるというのは、どれだけ性や人付き合いに真剣に向き合ってこなかったかを自ら露呈しているようなものではないかと。
世の中仕事だけに限らず、まともに向き合おうと努力すればするほど面白さが増す一方悩み苦しむもので…これ以上言うとただのグチになるのでやめにしよう。とにかくあらゆるリスクを差し引いてでも私にとって今の仕事はベストだと思っている。
とはいえ、壁にぶち当たらないということではない。共に業界を盛り上げている女優たちはどれも大輪のひまわりや気高く色っぽい薔薇のように見えて、コンプレックスでガチガチに硬くなり、苔むす岩のような私は相変わらず目立たない。