お盆明けなら休みがあって会いやすいということで、渋谷でランチをしようということになり、時間と日程を決めた。かれこれ1週間以上メールで何通もやりとりをしていたので、すっかりメル友のようになってしまっていた。一度も会ったこともない女性と、他愛もない話をこんな風に続けるのも、なんだか楽しいなあと思っていた。極端なことを言えば、会わなくてもメールだけでいいんじゃないかとも思い始めていた。
ランチを約束した日、ちょっとだけ緊張していた私は、夏の暑い日だったが、ジャケットを着て、渋谷でハルカを待った。
待ち合わせ場所に現れたのは、涼しげなワンピース姿で髪を肩くらいまで伸ばし、薄化粧をした美人だった。ウイスキーのCMなどで妖艶に男を惑わす癒し系の美人女優に似た雰囲気で、少しだけ物憂げな表情を浮かべているのがなんとも魅力的だった。
「ハルカさんですか?」
「はい。たけしさんですね。こうやってお会いするのって、なんだか気恥ずかしいですね」
「今日はお会いできて、とても嬉しいです。こんなにおきれいな方だなんて思ってなかった」
「まあ、ありがとうございます。お上手なんですね」
「いえいえ、お世辞じゃないですよ」
そんな話をしながら私たちはレストランでランチを食べた。
それまでにメールでやりとりをしていたので話は弾み、ずいぶんと長い時間、私たちは話をしていた。
食事を終えてコーヒーを飲みながらデザートを食べている時に、急に会話が途切れた。
「ねえ、たけしさん…」
「な〜に?」
「怒らないで聞いてね。たけしさんはあたしとどんな関係になりたいの?」
「えっ?」
真剣な表情で、ハルカが私を見る。
「愛人的な関係? それともお茶友だけでいいの?」
「ハルカさんに会うまでは普通にお茶友でお話できるだけでもいいかなあって思ってたんだけど、会ってみて、今は大人の関係でハルカさんのこと抱きたいって思っているよ。なんかごめんね。こんな言い方になっちゃって。ハルカさんはどうしたい?」
「あたしは…たけしさんなら嫌がることなんて絶対しなさそうだし、たけしさんとそういう関係になりたい」
「そう思ってくれるなら、嬉しいよ。そうなれたらいいなって思ってたから。でも、ご主人もいるし、私も結婚しているからどうなのかなあって思っていた」
「あたしのことは後で話すね。でも、たけしさんとはいい関係になりたいの」
「ありがとう。嬉しいよ。今度、時間のある時にゆっくり会いたいな」
そう言うと、ハルカは首を振った。
「ううん。今度じゃなくて。今がいい」
「えっ、いま時間は大丈夫なの?」
「うん。今日は子供も帰るのが遅いから、夕方までに帰れば大丈夫」
私はハルカと一緒に道玄坂を上がり、ホテル街に向かう。まだ明るい昼間に人妻をラブホテルに連れ込むという罪悪感は多少あった。
ハルカは私の手を握ってきて、下を向いたままだ。