そして、実は瓦町駅近くにはもう一軒、民家風のちょんの間があった。もちろんそこにも行ったのだが、女将に「女のコがいない」と言われ、門前払いとなってしまったのだった。
そこまでが平成20年(2008年)頃までの話。その4年後に高松を再訪した時は、高松駅前のちょんの間旅館は、なんと、趣きあるカフェにリノベーションされていた。そして「T」旅館の方も、その夜に玄関の赤い照明が灯ることはなかった。「高松のちょんの間は終わった」と、肩を落として宿に戻ったのだった。
琴電瓦町駅の裏手には、「T」同様の小さな旅館やビジネスホテルが多く、「ひょっとしたら」とは思ったのだが、それには四国独特の理由があった。たしか、近くにあったうどん屋の女将に聞いたのだと思うが、これらの安旅館は、霊場参りをするお遍路さんのために作られたのだという。
近年、お遍路をする人も少なくなり、空いてる部屋で風俗稼業を始めたというのが、元赤線街でもない街にちょんの間旅館ができた理由ではなかろうか。
そして、その後の「T」はリフォームして、外国人相手のゲストハウスとして旅館業を再開しているようだ。もちろん、日本人も泊まれるので、次に訪れる時は利用してみようと思う。
〈写真、文=松本雷太〉