情熱の権化と化した村西の指示のもと、演者がカメラの前に立つ。しかし、ヘアヌードビデオのためにかき集められた50人ほどの女優たちは、村西の迫力に圧倒されてか、それとも「なんだこの暑苦しいオヤジは…」と呆れてか、まったく足並みがそろわない。
超ヤル気満々の女優が、「プロなんだからさぁ~」と涙ながらに士気を上げようと試みるが、その声は冷たい風に吹き流されてしまう。とはいえ、有名観光地で観光客が冷ややかに見つめる中、50人近くの全裸の女が『おもちゃのチャチャチャ』(この選曲が謎すぎて絶妙)を岩場や川べりで歌う姿はシュールすぎて手に汗握る。
常人では理解できない演出についていけなくなったかどうかはわからないが、とにかくすさまじい強行軍には女優たちから不平が出る。「うんこもできない」ほどの過密スケジュールでは、女優が不満を漏らすのも当然だ。
統括する村西も放っておける状態ではなくなり、急きょ女優たちの説得にかかることに。そこで、村西は監督として女優のモチベーションを上げようと優しく語りかける。が、やがて口調が激しくなり、しまいには恫喝するほどの勢いを見せて女優たちをビビらせまくる。どこでスイッチが入ったのか、これもまた謎だ。
トラブル続出の中、最大の事故が突如として発生する。とある場面の撮影中、出演女優の目の前で止まるはずだった車がオーバーランし、女優に思い切りぶつかったのだ!
濡れた芝生にブレーキが利かず、「ドゴン」と生々しい衝突音が重く響く。そこにいた女優は一瞬にして何メートルも吹き飛ばされ、力なくうずくまる。慌てて飛び出てきたドライバー役の男は、「リハでは大丈夫だった…」「芝生が濡れてて…」などと言い訳しながらみるみる青くなる。
とんでもない事故にスタッフは大慌て。大事には至らなかったものの、騒然となった現場に救急車のサイレンが狂ったように鳴り響いた。
一人悠然としていたのは村西。彼は事故原因となった俳優に「あなたは自分の仕事をしただけだから」「事故の責任は私にある」と言い放ち、次の現場に向かうのだった――。
劇中、村西は何度も激高する。その言葉はここでテキスト化するのもはばかれるほど激しいものだった。それでいて優しく微笑み、時に涙を見せ、また飯を食らう。すべてが本能の赴くままといった感じだ。
彼の情熱の源は何なのか。50億という巨大な借金に立ち向かうための気構えか。素晴らしい作品を作りたいという欲求か。いや、情熱の源は村西とおるそのものか。
末筆ながら、私はひょんなことから村西とおる氏と直接言葉を交わしたことがある。このときは氏が得意の応酬話法で喋りまくっただけだが、彼のみなぎる生命力とすさまじい圧力を肌で感じた。
特に人を惹きつける力が圧倒的だった。それがカリスマと呼ばれる所以なのだろう。『M/村西とおる狂熱の日々 完全版』は、そんなカリスマの圧巻のバイタリティを腹の奥底で感じられる。腹の底と言ったのは、いろいろなことが謎すぎてめちゃくちゃ笑えるからだ。
その計り知れないコメディ感は、50億という借金に直面しながらも、なぜか簡単に返せると思っている節のある村西の超絶ポジティブな一面によるものな気がする。まさに50憶の借金と前科7犯という重すぎる荷を抱えながらも人生を謳歌する男の人生礼賛大コメディだ。
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