しばらくして、お手洗いへ。すると、トイレに向かう途中で先ほどのアイドルの子とすれ違った。
「あ、さっきはお疲れ様でした」
「ステージから見てましたよー! 応えてくれてありがとうございました!」
「いやぁ、普段アイドルのライブって見ないけど、凄いね。すっかり見入っちゃった」
「本当ですかぁ? ありがとうございます! お兄さん、カッコいいから私チラチラ見てましたよ(笑)」
「マジで? 変わってるね(笑)」
まさかの返答に、私はドキドキを隠しながら答えた。すると、
「あの、これ良かったら…」
と彼女は小さな紙を手渡してくる。
「スタッフさんに見つかっちゃうとヤバいから、内緒で!」
彼女は小走りでその場を去っていった。
その後のイベントも滞りなく終了し、私はそそくさと後片付けをして帰宅。そして、手渡されたメモを開くと「良かったら連絡ください!」と彼女の連絡先が書かれていた。
そんな上手い話があるか…?
と疑いつつも、思い切って連絡をしてみた。それから一時間ほど経った頃、彼女から返信があった。
お互いの話などをしているうち、二人で食事に行く約束を取り付けることができた。そしてデート当日。待ち合わせ場所には大きなマスクを付け、可愛らしいピンクのワンピースを身につけた彼女がやって来た。
すぐに車に乗り込み、すぐに発射。ご当地アイドルの彼女が地元で男と居るというのは良くないということで、隣県まで向かう。
とりあえず食事をする。それが終わると、あまり遅くまで連れ回しても良くないと思ったので、 車に戻ったところで「戻ろうか?」と尋ねた。
「…やだ。帰りたくない」
彼女が言う。
「でも、あんまり遅くなると親御さんも心配するよ?」
「大丈夫。私だってもう二十歳だよ? 子供じゃないんだから」
彼女は少し強い口調で答えると、シフトレバーに置いてある私の左手をそっと握ってきた。