「その人、家族はいないんだ」
「奧さんと娘さんがいるよ。娘さんはあたしと同い年くらいの大学生だって」
私も人のことは言えないが、こんなに可愛い女子大生とうまいことやっているなんて、と少し嫉妬した。
「その人、いま仕事でアメリカにいるんだけど来週帰って来るの。連絡専用のスマホを渡されてて、いつもLINEで返信して位置情報がわからなくなると怒り出すの。ほら」
と、スマホのLINEの画面を見せる。タイムラインにその男性のメッセージが流れてきた。時差が何時間あるんだっけと考えているうちに、レナは食事をしながらしょっちゅう画面を覗きこんで返信をしている。
「これが朝から晩まで続くの。だから、時々頭にきて返信をしないとケンカになって。でも、もう別れるって言うと、すぐに謝ってくるから可愛いの」
ある意味、その男性も立派な変態、いやストーカーだと思った。
「それで、どっちを選べばいいか悩んでいるの?」
「ううん、そうじゃないの。お小遣いは欲しいから、二人とはこれからも会うつもり。ただ、二人に毎日のように会わなくちゃいけなくって、勉強する時間とか、サークルの練習に参加する時間が取れないし、どうしたらいいんだろうって悩んじゃって。これから試験もあって単位を落とせないし、サークルの合宿もあるし」
なんだ、そんな悩みなのか、と拍子抜けした。
「二人のパパさんはお互いのこと知らないんでしょ?」
「もちろん知らないよぉ〜。話したのは、たけしさんだけ」
ちょっとだけ優越感を覚えた。
「じゃあ、大学の授業やバイトが忙しいって言って、会う回数を減らせば? サークルだって忙しいんでしょ」
「うーん、でも二人ともすぐにヤキモチを焼くんだよね。昨日もサークルの先輩が口説いてきて、いい雰囲気になったんだけど、アメリカのパパから電話がきちゃって。いま誰といるんだとか、男といるんだろうって責められて、先輩とも気まずくなっちゃった。もう一人の方は、いますぐ来ないとお手当てを振り込まないっていうし」
モテて仕方がないという、ある意味贅沢な悩みだ。にしても、ずいぶん嫉妬深い男性たちだなと思った。
「どっちか一人に絞りたいの?」
「うーん。二人ともお金をちゃんとくれるから、関係を切るのがもったいなくって」
まったくもって愛人気質の女の子だ。
「じゃあ、レナちゃんが頑張って二人と付き合うしかないかなあ」
「うん、そうなんだけど…。あと、アメリカからパパが帰ってきたら、あたしのことを抱いてもいいって約束してあるの。それがちょっと不安で」
「どういうこと? そっちのパパとはいつもエッチしてるんでしょ」
「ううん。あたしまだ処女だよ」
私の頭の中でクエスチョンマークがいくつも浮かんだ。