外はまだ雨が降っていないようだ。なので、誘ってみることにした。
「天気は良くないですが、時間ができたので良かったら会えないかなあと思っていました。今日でなくてもご都合が合う時があれば、一度お会いしてみませんか」
「私はちょうど用事が終わったので、交通機関が乱れる前に帰ろうと思っていたところでした。渋谷にいますので、もし今からでよければお会いできますよ」
こんなにうまく話が進むなんて、ちょっと出来過ぎじゃないかと疑った。
「良かったら、写真を交換しておきませんか?」
「業者」がなりすましている場合は、写真の交換を提案してもほとんど断られる。写真の美女が待ち合わせ場所に来ることはまずないからだ。だが、カレンは、
「いいですよ」
と写真を送ってきた。目元を隠したプロフィール写真とは別カットの、顔全体が写った写真だった。確かにプロフィールに書いてあった女性タレントによく似た雰囲気の美人だった。
本当かなあ、と私はますます疑ってしまった。こんな美女が出会い系サイトに登録して私のようなアラフィフと会おうと思うものだろうか。待ち合わせ場所と時間を決めたときにも、まだ半信半疑だったが、仕事も切り上げたことだし出かけることにした。
台風が近づいているせいか、雲の流れが早い。雨が急に強く降ったりして湿度が上がり、汗が吹き出してきた。
約束した時間ちょうどに待ち合わせ場所に着くと、オシャレなデザインのTシャツに、ぴったりとしたジーンズ姿の女性が立っていた。長い髪が背中まで届き、この蒸し暑さの中でも涼しげな雰囲気だった。
「カレンさんですか」
「はい、たけしさんですね」
「どうしましょうか。まだ時間も早いから、お茶とかでもしますか?」
「さっきお友達とお茶してきたばかりなんです。台風も近づいてるみたいだから、ホテルに行ってゆっくりしませんか?」
話が早い。私に断る理由はなかった。
ラブホテルに向かう途中で雨が急に強くなり、私たちは慌ててホテルに逃げ込んだ。部屋に入り、タオルで身体を拭きながら、とりとめのない話をする。
カレンは21歳で、音楽の専門学校を卒業後に芸能事務所に所属し、アイドルを目指しているそうだ。今は歌やダンスのレッスンを受けていて、グループでのデビューを目指しているという。どうやら送ってくれたのは、事務所に撮ってもらった宣材写真のようだった。