近隣住民であれば会釈して通り過ぎるのだろうが、ここはただの住宅街ではない。ひょっとしたらその手のおばちゃんかもしれないと会釈以上の何かを期待していると、果たしておばちゃんは期待通りの言葉を発した。
「お兄さん、遊び?」
全国共通の、夜の合言葉である。うなずくと手招きして細い路地に入り、筆者をオトナのファンタジーワールドへと導いてくれるのだった。
当時、堀之内も黄金町もまだ元気だったのに、なぜ横須賀まで取材に来たのか。それは、安浦には若い女のコもいるという情報があり、「ひょっとしたら横浜のギャルと遊べるかも」というワクワク感でいっぱいだったのだ。
おばちゃんが連れていってくれたのは、一見、普通の民家だけど、店舗だったころの名残のある建物。そこの女将にバトンのように筆者を受け渡すと、今度は女将が部屋に案内してくれた。
建物は古びた旅館というか民宿風で、二階の小さな部屋が並んだ廊下のその端に、トイレと手洗い場があった。
部屋の天井からぶら下がる洋風の照明器具。赤く色がついた電球が、部屋の中を怪しげなピンク色に照らしていた。