賢者モードに突入し、冷静にそんなことを考えていた。
その後、お掃除フェラが始まったが、2~3分経ってもメルはペニスから口を離そうとしなかった。
「あ、あの、メルちゃん? もう大丈夫だよ」
「ん…ちゅ…ぷはぁ。何言ってるんですか、一回だけじゃもったいないですよ? せっかくの90分コースなのに!」
まさかの二度抜き宣言。このコの仕事に対する意識の高さは本物だ。
メルの言葉に甘えたかったが、本来の目的は引き抜き。ここで流されてはいけない。
「メルちゃんありがとう。でも本当に大丈夫だよ」
「うーんそうですか…。お兄さんがそういうなら…」
「それよりもちょっとだけお話できるかな?」
「えっ、お話ですか?」
メルは少し不思議そうな顔でこちらを見た。
「うん、実はさ…」
…
……
「なるほどー。お話は分かりました」
「どうかな? 報酬は今よりも多く出すし、いい仕事環境を約束する」
「すごく嬉しい話なんですけど、ちょっと考えさせて欲しいです。
さっきランキングのふたりに適わないって話したんですけど、実は心の中ではまだ諦めきれなくて…。私、なんとか一度でもこの店でナンバー1を取りたいんです」
「そっか…それは君にとって収入よりも大事なことなの?」
「そう…ですね。私のプライドみたいなもんです!」
ニッと歯を見せ、彼女は無邪気に笑った。
こりゃ、今回は失敗だなぁ。
「そっか。それじゃ、もし何かあった時は連絡してよ。待ってるから」
そう彼女に告げ、連絡先だけを交換してホテルを出たのだった。
※ ※ ※
後日、私以外にも引き抜きに失敗した者は数名いたが、十数名の店長たちは成功し、結果的にライバル店にダメージを与えられた。
ちなみに、引き抜きに失敗した私たちは会長からお咎めを受け、利用した料金を支給されなかった。
だが私にとっては、仕事の意識が高い女のコがいることを知れただけでも収穫だった。なんだか晴れ晴れとした気持ちで、今日も仕事に向かうのだった。
(文=小鉄)
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