「大丈夫? 電車まだある?」
彼女にそう聞かれたのは日付が変わるころだった。
俺は「実はもう終電ないんだよね。泊めてくれない?」と答えた。
酔っぱらっているN子は、
「も~しょうがないなぁ~」
と俺の腕を組んで歩き出す。それから電車に乗り、N子の家の最寄り駅で降りる。すぐにコンビニで酒を買い、彼女の家へ向かった。
途中、信号待ちをしているとき、不意にN子が、
「アンタ、いい人?」
と聞いてきた。
このとき、俺がなんて答えたのかは覚えていない。だが、あまりにも唐突な質問に戸惑ったことは記憶にある。ともかく、無事にN子の部屋に上がり込んだ。
娘は実家に預けたらしい。飲みに行くからなのか、男を連れ込むためなのかはわからないが、とりあえずふたりきりになった。
スーツを脱いで、ワイシャツだけの楽な恰好にさせてもらう。N子も膝下まであるロング丈の部屋着に着替えた。
テレビを見ながら酒を飲み、他愛のない会話をする。酒がまわっているのか、N子がテレビを見る俺の視線を遮るように立ち、俺の顔を覗き込んでくる。そのとき俺はキスをした。狙ったわけでもなく反射的だった。
N子はその場にパタンと座り込み、俯いて黙り込む。「そろそろ寝る?」 と聞くと、彼女は黙ってうなずき、布団を敷いた。