そしてもうひとつ、私がバンギャを勧誘の対象に選んだ理由がある。それは、
ルックスのレベルが高い女性が多いことだ。
ルックスというよりは、化粧の仕方やスタイルの維持といった方がいいだろうか。
彼女たちは、少しでも自分が応援しているバンドのメンバーに振り向かれたい、近付きたい一心で、メイクや女性としての可愛らしさ磨きに真剣になる。
派手な髪ではあるがきちんとセットしてたり、写真を取れば超美形になる綺麗なメイクだったり…。一般的な方向性とは少し違うかもしれないが、美しいということには変わりはないのだ。
女性としての魅力を磨く人間は、風俗においてもお客様から支持される傾向にある。
そういった期待も込めて、バンギャにターゲットを絞ったのだ。
声を掛け始めて20人目くらいで、ついに反応を示す人間が現れた。
「お姉さん、すごく可愛いですね」
「えっ、あたしですか?」
私の言葉に驚いた顔で目を見開いた彼女は、明るい金髪の胸の大きな女性だった。
「今日はどこから来たの?」
「あっ、えっと…九州からです」
特に警戒する様子もなく、食事に誘うとOKをくれた彼女の名前は「ラン」。
整ったメイクのお陰か、驚くほど美しく思えた。
普通なら、ナンパしたところでついて来ることなんてないレベルだ。
時間もちょうど夕刻を過ぎた頃だったので、私たちはライブホールからすぐ近くの居酒屋で食事と酒を楽しんだ。
「九州から来るなんて、ランちゃんはあのバンドの追っかけなんだねー」
「そうなんですよー! すごく好きで…」
「でも、お金とかすごくかかりそうだよね」
「おっしゃる通りです…」
少しうなだれるようなそぶりで、心なしか声のトーンも悲しそうになる。
「本当に生活がギリギリで…。実は、食事についてきたのも食費を浮かせる算段で(笑)」
「あはは! 正直でいいね(笑)。大丈夫、ちゃんとおごるから好きなもの食べてね」
パァと表情が明るくなるラン。
嬉しそうにチューハイを飲み干して、追加の注文を店員に告げる。
愛らしい彼女の笑顔はキラキラして見えた。
「泊まる場所はどうしてるの?」
「いつもはネカフェかカラオケですね!」
「ランちゃんさえ良ければウチ来る?」
私の言葉に一瞬考えこむラン。
そりゃそうだ。会って間もない男の家に上がり込むなんて、どう考えても怖いはず。それでも、漠然とイケるんじゃないか踏んだ。
「…はい! お世話になっていいですか?」
「もちろん」
この数秒の間に覚悟を決めたのだろうか。酒を飲んで、しかも男の家に泊まるなんて、“そういう行為”をされる可能性の方が高いことは、彼女自身が一番分かっているはずだ。
そして、ひとしきり料理と酒を堪能した後、タクシーに乗って私の家に向かうのだった。