【濃い時間を過ごしていても、別れは突然】
それはアカコとの同棲生活が2カ月になる頃だった。
「ちょっと出稼ぎに行こうと思うんだ」
「出稼ぎ? どれくらいの期間?」
「2週間の予定だね。お留守番よろしくね」
「お留守番って(笑)。まぁ分かったよ、気をつけてね」
その2日後、彼女は出稼ぎに行き、私はいつも通りの生活をしていた。
…がある日、早朝に突如インターフォンが鳴る。
ココを訪ねる人間なんて、この1カ月でひとりもいなかったはず…。
おそるおそるインターフォンの画面を覗いてみると、そこには初老の男性と女性のふたりが映っていた。
マイクボタンさえ押さなければ向こうに声は聞こえない仕様だったので、このまま少し様子を見ることにした。
女性「さやか? いるんでしょ?」
男性「さやか。とにかく出てきてくれないか」
さやか…とは一体誰のことだろうか。いや、それよりとにかく連絡しなければ…。
私はすぐさまアカコに事の詳細をメッセージで伝えた。
「ごめんね。荷物まとめてどこかホテルにでも移動してくれる?」
「あの人たちは?」
「親なの。さやかは私の本名」
「えっ、何? 親に追いかけられてるの(笑)?」
「まぁ、そんなところ(笑)。ごめんね。落ち着いたらまた連絡するから、しばらくはホテルで暮らすか、新しく部屋借りてくれる?」
「了解。無理しないで」
「ありがとう。元気でね」
この連絡を最後に、アカコとは連絡が取れなくなった。
結局、家賃と光熱費の掛からないヒモ男生活は、たった2カ月で幕を閉じた。
なぜアカコが親から追いかけられていたのか、そして、そんな親を持ちながらなぜ風俗という仕事をしていたのか、今となってはもう分からない。
彼女は、私が唯一暮らしを共にしたことのある、思い出深い風俗嬢となった。
(文=小鉄)
【元デリヘル店長の回想録】バックナンバー
第1回:別段可愛くもないけど、やたらと本指名を取れるキャストの特徴と仕事に対しての考え方
第2回:「さっきの客、マジでキモかった」と言い放つ傍若無人なキャストに教わったこと
第3回:貴方は騙されてない? 風俗スタッフの巧みな接客テクニック
第4回:押しに弱そうな風俗嬢を本当に押し倒した話
第5回:理性が吹っ飛び、モデル系22歳の若妻と関係を持ってしまった話
第6回:風俗嬢たちの狂った金銭感覚
第7回:各風俗店のNo.1キャストが一堂に会するイベントで分かった人気嬢の共通点
第8回:実技講習でそのままキャストを頂いてしまった話
第9回:「だからお前はダメなんだ!」売れない風俗嬢たちの共通点
第10回:Hカップ巨乳の魅力に思わず負けてしまった日
第11回:芸能人ばりのルックスの19歳キャストを抱いた話