しかもこの種の迷信、ヨーロッパ全土で広く見られる。たとえば、1904年フランスで慢性の潰瘍に苦しんでいた男性が、親戚の少女を乱暴して逮捕されている。やはり、処女とセックスすれば病気が治るとの迷信からだった。
また、アメリカでも1900年代には同種の迷信がはびこっていたらしい。すぐれた医療機関として知られるメリーランド州ボルティモアのジョンズ・ホプキンス病院が実施した調査によれば、当時、ボルティモア市内では15歳以下の少女が年間800人から1000人も性感染症に感染しており、その原因としてやはり同じ迷信による被害がかなりの率を閉めているとの結果が得られたという。
実はこの「処女とのセックスは難病治癒に効果あり」という迷信だが、太古のヨーロッパが起源という説もある。古代ローマ時代に軍人プリニウスがまとめた『博物誌』に、処女には病気を直す力があるとの記述がある。といっても、「処女が指で触れると病が癒える」といった程度のものである。それが千数百年の時を経て、「処女とのセックスでSTDが治る」と変形してしまったのだろうか。なんとも勝手傲慢な話である。
念のために繰り返すが、処女とのセックスによって傷病が治癒するような根拠はまったくない。かような迷信、くれぐれも信用しないように。ちなみに、現在、梅毒や淋病、クラミジアなどほとんどの性感染症は、よほど重篤でなければ飲み薬で完治する。取材だけでなく、何度も実際に泌尿器科を受診した筆者が言うのだから、間違いない。
(文=橋本玉泉)