元彼の話やセックスの話などで盛り上がり、お互いいいムードになったところでお会計。店員が伝票を持って来たタイミングで、みなみちゃんはお手洗いに行くと席を立った。少し飲みすぎたのでいつも以上の出費になることを覚悟しながら伝票を見ると、そこにはありえない数字が…。
ふぁ? 8万円!
動揺しすぎて変な声が出てしまった。0が1個多くないか?
私はこの瞬間、今まで摂取したアルコールをすべて分解したかのように目が覚めた。さすがにこれほどの出費になるとは思っていなかった。
明細を見ると、1杯7000円程のワインが10杯程頼まれている。みなみちゃんが飲んでいたワインだ。
あの小さなグラスにチョコっと入っているだけで7000円もするのかよ!
始めは全額出すつもりでいたが、これを見るとさすがに奢る気にならなかった。というか払えない…。
みなみちゃんがトイレから戻って来たところで伝票を見せ、いくらか出してもらうようにお願いした。すると、「私、今日奢ってもらえると思ってたのに…」と衝撃の発言。しかも、カードも現金も持っていないとのこと。呆れて言葉もなかった。
とりあえず店から出たかったので、店員にカードでの支払いをお願いした。しかし、なぜかクレジットカードが使えないらしく、現金での支払いを要求された。
交渉するが、カードは使えないの一点張り。仕方ないのでコンビニでお金をおろすことにした。
店員にコンビニに行きたい旨を伝えると、店から出るなら一筆書けと言われ、電話番号の確認までされた。
その後、コンビニで泣く泣くお金をおろし、店に戻った。すると、そこにみなみちゃんの姿はなかった。
店員に聞くと「あの女性ならもう帰られましたよ」とあっさり。
おいおい、金を払ってない客を勝手に帰すってどういうことやねん!
これではっきりした。お店と女のコはきっとグルだ。
そもそも「いつも行ってるお店だと安心」というところから疑うべきだったのだ。仮に最初にコチラが選んだ店に行ったとしても、その後、この店に誘導されていた気すらする。初対面で、しかも下心もあるわけで、なにかを決める際にはどうしても相手に嫌われたくないという心情が働いてしまうものだ。私はそれにまんまと引っかかった訳だ。
あんなに楽しく話していたのに、すべては私を騙すためにやっていたことだったのかと思うと、イライラは収まらなかった。みなみちゃんはもちろん、それにホイホイとついていった自分にも腹が立った。
しかし、今さら怒ってみたところで、お金も時間も戻ってこない。理不尽ながらも今回の出費は勉強代だと考え、もやもやした気持ちを落ち着けるべくコンビニで酒を買って帰宅した。
(文=拓)