熱意か狂気に押されて噂をしていたその店に河岸を変えると、確かにモデルやアイドル顔負けのルックス揃い。しかし、声がハスキー過ぎて、女ではなく男なのだと実感させる。なるほど奇妙な感覚に陥る。
「胸はシリコン入れているのか?」「女性ホルモンを打つと何が変わるのか?」など、飲み屋らしいくだらない話題を繰り広げていた。ここまではキャバクラであれゲイバーであれ、今まで通っていた飲み屋と変わらなかった。
しかし、「これだけのルックスやスタイルなのに、男なんだよなぁ」という違和感が興奮を高める。心底女好きなら、違和感が拒絶反応に変わる場合もあるだろう。だが、こちとら女にウンザリした状態ゆえにこんな場所にいるのだ。店を出た頃には、ニューハーフAVをレンタルビデオ店で大量に抱えていた。
こうして、方々のニューハーフ系の店を開拓するようになり、そのうち連絡先を交換する相手も出てきた。そのうちのひとりが、エロ本編集者でハメ撮りを生業としていることを話したら「出たい!」と強い関心を示した。名前を仮に「カヨ」としておこう。年齢は24歳だった。
カヨは性同一性障害で性転換手術を済ませていた。どんなに女のような顔をしていても華奢な体つきであっても、どことなく男の面影が残っているものなのに、声を除けば男だった跡が見当たらなかった。おそらくいろんな部分を手術したのだろう。
「自分の体は手術こそしているものの、その辺の女には負けないほど美しい。ずっと女として欲情されたいと思っていたので誌面に出させてほしい」
とカヨは訴えてきた。女に生まれたかったという気持ちはよく分かったが、普通の女はハメ撮りでエロ本に載りたいとは思わないだろうと思ったが、当時はニューハーフに夢中だったので、役得とばかりに承諾した。女でも全身サイボーグばりに整形手術をした連中を掲載したことがあるので、まぁ誤差の範囲だろう。