赤ん坊特有の甘い匂いが、これから行う仕事への意欲を奪う。
今更アタマのおかしい女を見ても何も思うところはないが、さすがに乳児の前でセックスというのは気が引けるどころではない。だが、この子の母親はさして子供の存在を気に留めていなかった。明るい家庭に恵まれなかったエロ業界関係者は多くいるが、さすがに“乳児を連れた母親が生活のためでもないのに見知らぬ男とセックスをしていた”という陰惨な話は聞いたことがない。いや、あったとしても他人に話せる内容ではないだろうが。
状況を鑑みれば、現在、かなり悲惨な場面である。しかし、エリコは一切意に介さない。育児放棄などの児童虐待は人妻の撮影で耳にしたが、現場に立ち会ったのは初めてだった。
彼女たちは開き直ったり同情を引くために過度に話を盛ったりするが、それは罪悪感の表れだろう。目の前のエリコからは、そういう感情がまったく読み取れなかった。「コイツ、頭おかしいんじゃないか?」と思うより先に恐怖を感じた。
考えれば考えるほど怖くなってきたので、さっさと仕事を終わらせて東京に逃げ帰ろうとかなり巻いて進行したが、赤ん坊は泣くのが仕事。ポーズを取っている間に母乳が欲しいと泣き、フェラをしている時にオムツの中身が不快だと泣く。エリコはその度、丁寧に赤ん坊をあやすのだが、ギャップがあり過ぎてもはやホラーだ。
乳児がいる人妻なのだから母乳プレイ程度のことは考えつくはずなのに、この時は人妻という特性を活かす撮影など思いもしなかった。とにかく「早く撮影が終わりますように」と祈ってばかりで、くだらんことを思案する余裕などない。
精神的に委縮しきっていたので、もはやハメ撮りどころではなかったのだが、習慣とは恐ろしいもので、カメラのファインダーから覗いているとチンコが勝手に立ち上がった。
コンドームを装着して何とか行為までもっていったが、このシチュエーションで射精するほどの度胸は持ち合わせていない。いくつかの挿入シーンを撮影して、そそくさとホテルを出た。
帰京するにも新幹線の出発まで時間があったので、インタビューがてらエリコと駅近くのファミレスへ。すでに取材を終えた気楽さから多少は心の平安を取り戻し、「子供がいて撮影をして、思うところはなかったのか?」と訊ねた。するとエリコは、屈託のない表情で
「セックスのために子供を放置するよりはマシでしょ」
と返してきた。そういうことではないのだが…。
さすがに夢を売るエロ本で「子連れでセックスしました」とは書けず、毒にも薬にもならん与太を書き連ねてお茶を濁した。頭がどうこう以前に、まったく異なる精神構造を持つ人間は恐ろしいと痛感した撮影だった。
(文=伊藤憲二)
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