また、セックスワーカーの地位向上のために日夜活動している人たちもいるが、残念ながら世間一般の裸商売の地位は絶望的に低い。もっとも、社会的地位が低いから撮影現場からバックれたり、ある日失踪したりしても「まぁ、仕方がないか」と許される緩いノリが存在しているわけだが。
出演者がやさぐれて撮影者もやる気のない環境ではあるが、時折、掃き溜めに鶴のようなモデルが応募してくることがある。それが前述した教師や弁護士など、社会的地位の高い女たちだ。
社会性が高いゆえなのか、彼女らは撮影では極めて常識的な振る舞いをする。中には、撮影スタッフに対して手作りクッキーの差し入れを持ってくるモデルもいるくらいだ。普通、ハメ撮りのモデルが土産を持ってくるなんてことはまずない。
こういう常識的なネーチャンが、何でまたハメ撮りなどという百害あって一利なしな行為に手を染めるのか。“新手の美人局か?”と訝しくなる。実際、ハメ撮りをしていると美人局に遭う確率は極めて高い。もっとも、美人局を仕掛けるのは、「ああ、なるほどね」という身なりのネーチャンがほとんどだけど。
筆者はハメ撮りで性病に罹患しても労災がおりないブラックな企業勤めだったので、美人局に遭ったくらいでは会社の庇護は受けられない。おまけに「このネーチャン、ヤバい予感がするので見送ります」なんて口が裂けても言える雰囲気でない素敵な職場だった。相手が何者であろうとも、「撮影OKです」と向こうが言っている以上、どんな罠が待ち構えていようがNOという文字はないのだ。
ということで、公立中学校教員の撮影の時も、一抹どころか洪水ばりの不安を抱え、待ち合わせ場所に出向いたのであった。
集合場所は、ホテル街近郊の繁華街。待ち人が来たとしても、誰が誰だか分からない。おかげで危うく職務質問されそうになりながら、モデルの到着を待っていた。
そんな時、後ろから「伊藤さんですか?」と鈴のような声で名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、黒髪に教師らしい落ち着いた服装、ルックスは抜群と言えないが、まさに「清楚系」を地で行く容姿の女の姿があった。
毎日のようにやさぐれた女の相手をしていたので、思わず小躍りをしかけたが、脳裏では「美人局」という単語がこびりついて離れなかった。