「大阪朝日新聞」昭和7年5月10日
さらに注目したいのは、このエロ写真密造団の取り締まりを担当したのが、歴史に悪名高い特高課、すなわちで特別高等警察であったことだ。
特高といえば、政治犯や思想犯を取り締まる組織として知られているが、表現活動も特高が取り扱う対象だった。
この特高、以前から主要各都市の警察に置かれていたが、昭和3年から全国の警察にも設置されるようになった。そして同じ年には、検閲によって発禁処分となった出版物をまとめた「出版警察報」が内務省警保局から発行開始されている。
「エロ写真なんて、政治や思想には関係ない」と思われがちだが、それを結びつけて「仕事」にしてしまうのも当局のやり方のひとつである。
先日、国会ではいわゆる共謀罪が与党によって強行採決された。現代の治安維持法と呼ばれながら、「一般人には関係ない」と楽観視する見方もあるが、歴史に残る数々の事実を見ると、不安を拭い去ることはできない。たとえば、脱走した政治犯をかくまっただけで、検挙され獄死した哲学者・三木清などの例があるからである。
(文=橋本玉泉)