■容体急変
あまりS様から目を離しているわけにもいかないので、待たせているお部屋に帰ると、S様が「洗面器! 洗面器!!」と呼んでいました。慌てて洗面器を渡し、ここで2度目の嘔吐。寒い寒いと呟くS様にバスローブとタオルをかけて部屋を暖め、コップの水を手渡します。S様は口をゆすいで、再びスイッチが切れたようにバタンと横になりました。
これは流石にちょっとまずいな…
と思い、私はご来店以降の経緯のメモをつけ始め、血が混ざっていないか、明らかな異物はないか確認しつつ洗面器の片付けをし、フロントに再びコールを入れました。そして、このあと行ける病院の手配を頼み、電話を切った時でした。それまでピクリとも動かなかったS様が飛び起きて、3回目の嘔吐、と同時に
「まおみちゃん、悪いんだけどちょっとマズそうだから、救急車呼んでくれる?」
と言われ、救急搬送対応に決まりました。
■通報、そして
切ったばかりのコールを取ってフロントへ。
「お客様、ちょっと無理そうなので、ご本人のご希望で救急車を呼んでいただきたいんですが…お願いできますか?」
ここで補足しておきたいのは、通常よほどのことがなければ風俗店に救急車が来ることはなく、火災発生時のマニュアルはあっても、救急搬送対応のマニュアルを設けているお店はほとんどありません。万が一何かあった場合には、皆様意地でも店を出るのでしょう。
この時コールに出た店長も、対応に困っていました。店長は勤続6年ほどだと聞いていたので、発生頻度もその程度ということになります。
「古参のスタッフに聞くので、少々時間を」
と言われ、一旦コールを切ります。そして、部屋で待つこと5分弱。折り返しのコールを取ると、店長から
「お待たせしました。これから救急車を呼びますので、部屋に人が入ってもいい状態にしてお待ちください」
との連絡でした。通報用として、店長にあらましを改めて報告し、あとはお任せしてコールを切ります。S様に
「よかったね、もう来るからね、もうちょっとだけ頑張って」
と声をかけ、おしぼりを替えて、おかえりの準備を始めました。