そんな彼女は、いつしか「生きた蓄音器」と呼ばれるようになったという。
こうした例は、現代にも通じるものがある。事実無根の噂話がインターネットで広まり、いじめや嫌がらせ、誹謗中傷などに発展することもある。また、証拠も根拠も何もないのに、目に付いた人物を「犯罪加害者」と決めつけて、氏名などをSNSに書き込んでいたりするような人たちも見かける。おうめさんのことを、昔の話と聞き流してはいられない。
ところが彼女、うわさを喋りまくるだけでなく、とんでもない行動もするようになった。
たとえばある日、おうめさんは全裸なって、自宅の屋根の上に上がると、近所に住む代議士の名前を上げて、「妾は嫌ですよ」「早く奥さんにして頂戴な」「出来ないというのですか。畜生」などと、わけのわからないことを叫び続ける有様。話の内容からして、おそらく彼女の妄想であろう。
彼女がその後、どうなったのかは記事には説明されていない。人目につく場所で全裸になったことには、あるいは警官に取り押さえられたのかもしれない。当時、肌を過剰に露出することは、それたけで検挙の理由になるほど取り締まりが強化されていたからである。
(文=橋本玉泉)