『大阪朝日新聞』昭和5年9月30日
その奪い合いは次第に激しさを増し、やがて大乱闘にまで発展。その結果、かの義兄も負傷、戸や障子が壊されるまでの騒ぎになってしまった。
これには近所周囲の知られるところとなり、ついに警察が出動。関係者一同が取り調べを受けることとなった。
だが、この略奪婚そのものは古くからの風習で、とくに珍しいものではないという。この件では事件になってしまったが、同じ村でつい十数日前にある女性が「強奪」されたが、こちらは「目出度く納まって盛大な披露の宴を張った」という。ほかにも、数日前に同じ手続きで結婚した夫婦もあり、仲睦まじく新婚生活を送っているという。
いわゆる「夜這い」にも見られることだが、一見すると野蛮で無軌道に見える風習も、実は厳しいルールが存在しているというケースは多い。旧い慣習だからといって、ただちに前近代的と決め付けるのはいかがなものか。
（文＝橋本玉泉）
