とある街の安宿。
知り合いの女の子が近くに来ていたので、ぼくは同じ宿に泊まることにした。知り合いといっても、似たようなルートで旅をしていて2回程顔を合わせたことがあるだけの仲だ。
「久しぶりだねー! 元気ー?」
前回会って以降どこに行ったのか、どういうルートでここまで来たかなど、旅人特有の中身のないお決まりの会話をはじめた。
【酔うとムラムラしてしまう女の子】
その国のワインは、安くて美味しいことで有名だった。酒を飲むのが好きなぼくと彼女は、ビールと紙パックに入った安ワインを買い込んで、宿にいたほかの客も一緒に飲むことになった。
酒を飲んでムラムラするなんて男なら誰でも経験があることで、旅中だろうとそれは変わらない。
そして男だけでなく、女の子でも中にはそういう娘がいるのだ。
「私、飲むとダメなんだよね…」
彼女はまさにそんな女の子だった。
飲み始めて数時間。いい感じに酔いがまわってきて、タバコを吸いに宿の外に出た。
少し肌寒い。それでも空気は澄んでいて、空には一面、星が散りばめられていた。
ぼーっと空を見上げていると、宿のドアが開く音が聞こえた。宿から出てきたのは彼女だった。
黙って近づいてくると、彼女はぼくの隣に腰掛けた。
「酔ったねー」
「明日、何するの?」
他愛ない話をしているうちに話が途切れ、沈黙になった。
ベンチに置かれた彼女の手に、ぼくの手を重ねた。
嫌がられるかもな…。
そういう反応も覚悟していたが、嫌がる様子はなかった。
「どーしたの?」とでも言いたそうな顔で、ただぼくの顔を見つめてくるだけだった。
ぼくも黙ったまま彼女の目を見つめた。
彼女がぼくの手を握り返してきたのを確認すると、抱き寄せてキスをした。
2人の間に言葉は一切ない。
視線で会話していた。
「寒いし、中に戻ろっか」
少し経ってから皆で飲んでいた場所に戻ると、テーブルは綺麗に片付けられていて、そこにはもう誰もいなかった。
宿のスタッフの若い男が暇そうにしてるだけだ。
この時点でぼくにはもう火がついていた。それに、なんとなく彼女も同じ状態である気がしていた。