【事件簿】10歳前後の幼女ばかりを誘拐し、売春宿に売っていた男


 こうした人身売買は、近代になってからも頻繁に事件となっている。それも、戦前だけではない。戦後の混乱期だけでなく、その後も人身売買は増え続けた。昭和24年には国連で「人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約」が可決される。しかし、これが日本の国会で承認されるのは、昭和33年4月のことだった。

 昭和28年6月に労働省が公表した調査によれば、人身売買の被害者は1年間でわかっただけでも1883人。前年度に比べ26パーセントも増加。さらに昭和30年5月に警視庁が発表した「人身売買に関する報告書」では、人身売買の被害者は前年度に比べて8600人も増加している。

 そのなかには、かなりひどいケースも目立つ。たとえば、昭和31年8月に都内で発覚したのは「監禁部屋」。貧しい農家の17歳から18歳の少女たちを騙して連れてきて、都内の貸間などに監禁して、集めてきた客との売春を強要していた。この事件では、40歳無職の男と23歳の内妻、さらに43歳の男の3人が逮捕された。少女たちは暴力ときびしい監視で自由を奪われ、ほとんど現金なども与えられずに売春行為を強いられていたのである。

 その後、昭和33年4月の売春防止法完全施行によって、人身売買は姿を潜めたかのように思われた。

 しかし、その後も人を金銭でやり取りする行為は、完全に消滅してはいない。最近では、仕事を求めて来日する外国人女性が人身売買の被害者になるケースも深刻だ。さらに、ほかにも人身売買と思しき事例は後を絶たない。

 カネのためなら人間の自由と権利をも踏みにじる、そういう行為は現代日本にも確実に存在するのである。
(文=橋本玉泉)

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