「てかヤバっ! 本当に日本人? なんでこんなとこいんの? まじヤバーい!」
見た目は褐色肌の完全なブラジル人。サンパウロの場末の風俗店で働く彼女は、流暢な日本語を話した。
どうして日本語を…。
酔いがまわった頭が混乱した。
日系ブラジル人が多い街・サンパウロ
1000万人以上が暮らすブラジルの最大都市サンパウロ。ここには日系ブラジル人の約70%、約100万人が暮らしていると言われている。
サンパウロにはリベルダージと呼ばれる大きな日本人街があり、和食レストランや食材店が立ち並び、日本人コミュニティが根付いていることがうかがえる。
長距離移動を終えて安宿にチェックインすると、他にもひとり日本人男性の旅行者が泊まっていた。ぼくたちは少し話をして、食事がてら飲みにいくことになった。
「そういえば、近くにボアッチありましたよ。行ってみますか?」
安食堂で飯を食っていると、彼はそう誘ってきた。ボアッチはナイトクラブと置屋を合わせたようなブラジル名物の風俗だ。
彼はぼくより長く滞在していたため、宿周辺の情報を持っていた。こちらから誘おうかと思ってたので、願ってもないチャンスだ。
とはいえ、外は真っ暗。ブラジルで強盗された旅人は数知れず。夜間に外を歩くのは勇気がいる。
「何回か出歩きましたけど、この辺りは大丈夫そうですよ」
彼のその言葉を信用することにした。
場末のボアッチに現れた流暢な日本語を操る嬢
メトロのFaira rimaという駅周辺にはボアッチが広がっている。
このエリアのボアッチは、地元民向けの安いもの。高級店ではチャージされる入店料もフリーだった。
体格のいいセキュリティをやり過ごし、店内に入った。中は薄暗く、バーカウンターやダンス用のポールがあり、数人の現地人と思われる客がビールを飲んでいた。
露出が多い服装の嬢が5人程度いた。どの嬢も黒人で、大半は縦にも横にも大きい身体をしている。日本人好みの嬢はほとんどいない。
店を出ていくつか他の店舗も廻ってみたが、どこも似たり寄ったりだった。
「イマイチですね。とりあえず、混んでる店で飲みましょうか」
廻った中で一番賑わっていたボアッチに戻ることにした。
客は全員現地人。外国人が入っていけば、視線が突き刺さるのがローカル風俗というものだ。ところが、彼らには気にするそぶりがまったく見られなかった。おそらく、日系人を見慣れているためだろう。海外風俗で、その場の雰囲気に自然に溶け込めるのは有難い。
店内には20人程の嬢がいた。ビールを注文して飲んでいると、彼女たちは時折営業にやってきた。若くてかわいい嬢もいたが、ポルトガル語しか話せない彼女たちとは、どうも会話が続かない。
「どうする? 帰ろっか?」
ビールを2本ほどあけたところで店を出ることにし、入り口に向かった。
「ちょっと待って!」
今、日本語聞こえたよな…。
振り向くと、そこには嬢がいた。年配の客と接客中だった。褐色の肌をしていて、見た目はどうみてもブラジル人だ。
「ねー! 日本人?」
「うん。そーだけど…」
完全にネイティブレベルの日本語だった。なんだこれ…訳が分からない…。頭が混乱した。
「すぐ行くから、ちょっと待ってて!」
状況が飲み込めなかったが、なんだか面白そうな匂いがしたので、席に戻って彼女を待つことにした。
5分程経つと、接客していた客を切り上げた嬢がやってきた。