『ネオン坂』という名前を聞いたことがあるだろうか? 古き良き昭和の情緒と風情が漂ってきそうな名前の坂道であるが、その名の示すとおり、赤線街の路地であった。愛媛県松山市の道後温泉本館裏手にその坂道はあった。
“あった”という過去形でお察しのとおり、真っ赤に光っていたネオン管のアーチもろとも、元赤線街は壊滅。ゆるい坂道に並んでいたちょんの間スナックも、建物自体が取り壊され、段々畑みたいな駐車場へと変わってしまっている。保存会までできた検番の建物も、残念ながら今はない。
夜、日本最古の温泉のひとつと言われる道後温泉の温泉街をポツポツと歩いていると、角々にオバちゃんポン引きが立っていることに気付いた。
声をかけてくるが、どのオバちゃんも紹介してくれる店は同じ一軒のスナックだった。それがわかったのは、ヘルス街近くにいたポン引きオヤジの言葉だった。
「オバちゃんが教えてくれるのは1軒だけだよ」
連れ出しスナックのようなので、連れて行ってもらうと、残念ながらいたのは樽や子狸みたいな四十路ばかりで、股間の食指はピクリとも動かない。
不満だったのは筆者だけでなく、ポン引きオヤジも同じだったらしく、店を出てどこかに電話していると思ったら、目の前に現れたワゴン車に筆者を押し込んだ。
(拉致られた!?)
ポン引きを怒らせてしまい、どこに連れて行かれるのかと内心ドキドキ。
ホンの数分でクルマが止まったのは、ヘルス街の坂道にある一軒の箱ヘルの前だった。
(オレが言ったのはヘルスじゃないのに…)
そう思ったが、これ以上コトを荒立ててはマズいと思い、素直に店員に連れられて店内へ。すると、受付にいた店員が意外なことを言った。
「今の時間ですと、VIPコースは60分1万6000円なんですけど、指名料込みでイチゴーで聞いてますので、それ以外はいただきません」
VIPコース…? なんと、あのポン引きオヤジ、ちょんの間がダメならと本ヘルを紹介してくれたらしい。それならそう言ってくれれば、ドキドキせずにすんだのに。
お相手は20歳の、太っていた頃の後藤理沙似の抱き心地の良さそうなコ。
「東京から来たの? あたし、この間まで渋谷のデリヘルにいたんだよ」
東京帰りの伊予娘のアエギ声を聞きながら、VIPなサービスに酔いしれた。
後日、調べてみると、この店だけでなく、道後のヘルスではVIPコースは定番の様子。赤線街の『ネオン坂』はなくなってしまったが、新しい『ピンク坂』が今はそこにある。
(写真・文=松本雷太)