そんな彼の運転で、車でモスクワの市街地へ向かうことになった。その途中、森林の多い淋しい地域を通過した際、道端で女性が親指を突き立てて、車に向かってアピールしていた。一見すると、ヒッチハイクだ。しかも、よく見ると、かなりの美人だった。
グレゴリーに「ヒッチハイクでしょ? 停まってあげないの?」と話しかけると、「あれ、売春婦ね」と教えてくれた。思わず気になってしまい、ガラス窓越しに女のコを凝視していると、「遊びたいのか? だったら、明日、車を貸してやる」とグレゴリーは冷静に対応するのだった。
目的地に到着すると、まずは仕事でお世話になるオフィスに挨拶だ。ただの偶然なのか、そこで会った社長もガタイのいい格闘家のような人物で、眼光も鋭かった…。
翌日、午前中にオフィスで打ち合わせをし、その後、社長とグレゴリーとランチとなった。食事を済ませると、社長が席を立つ際に「気を付けて」とニッコリと笑った。どうやら、グレゴリーから昨日の件を聞いているようだ。
当のグレゴリーは、車を貸してくれる際に「日本車だから、操作は同じね。地図もある」と、手書きの地図を見せてくれた。それは日本語表記で、分かりやすかった。その傍らに、段ボールの切れ端にロシア語で書かれたプレートがあった。
「あの場所に着いたら、この看板を出してください。ここには“英語か日本語に対応できる女性募集中”って書いてます」
グレゴリーの細かな配慮に感謝しつつ車を走らせ、無事、昨日の場所に着いた。道端に数人の女性がいたが、何か遠くに向かって話したかと思うと、物陰からほかの女性がわらわらと現れた。みんな美人だったが、まるでライオンに囲まれたサファリパークの車のように思え、内心かなりビビった。
女性たちは積極的に話しかけてくるが、ロシア語は語気が強く、慣れないと怒っているようにしか聞こえない。一度に数人から話しかけられる状態に、かなり恐怖を感じた。そこで、慌ててグレゴリーが書いた段ボールの切れ端を掲げることにした。
すると、なぜか大爆笑し、次々と女性たちは去っていった。そして、3人の女性が残った。
その中のひとりで、ナタリーと名乗った25歳のブロンドヘア―の女性が、「イングリッシュ、OK!」とアピールしてきた。彼女と交渉すると、日本円にして1万円程度だった。そのままナタリーの案内で、彼女たちが使っている売春宿へ行き、コトに及ぶことに。