函館にあった裏風俗「セキセン」
10年ほど前まで、そこには北海道の玄関口にふさわしい、ピンク色に染まった風俗街があった。愛想のいいママの店には、若くてカワイイ女のコの笑顔があった。
しかし、今、その場所に残っていたのは、黄色いライトが光る工事現場と、雪の中にひとつだけ煌煌と光る街灯。そして、その下に並ぶ静まり返った数軒のスナックだけだった。
函館市若松町のスナック街「セキセン」を訪れたのは、北海道新幹線開業まで約1カ月という日。雪の中、足を取られながら過去の楽しかった思い出を胸にその路地を訪れると、ある程度は覚悟していたものの、街の形は無惨というほどに変わっていた。
街が次々と再開発される中で、わずかに取り残された一画に、件のスナックが残っていた。いずれも“あばら家”と呼ぶにふさわしく、再開発しなくてもそう長くは持ちこたえそうもない外観である。
雪の細道に歩みを進めると、一軒の店のママが声をかけて来たのでその店に入り、女のコの様子を聞いた。
「今はどんなコがいるの?」
「どんなコがいいの? 今はみんな40代よ」
ママは正直に応えた。昔との大きな差に驚く筆者。
「ありゃ、もっと若いコがいると思ってたのに。20代はもういないんだ…」
それなら一杯飲ませてもらおうかと思ったその時、ママがスッと今入って来たばかりの戸を開けて言った。
「帰って。遊ばないなら帰って」
壊滅寸前の風俗街を久しぶりに訪ねた客に対する仕打ちは、雪よりも冷たかった。
さらに、元旅館風の建物にある店では、白髪頭の六十路のバアさんに、
「ひとりで寝るのは寂しいの」
と、言い寄られる始末だった。
最後の砦と思っていた松風町に並ぶ連れ出しスナックも、3年程前に閉まったままだという。仕方なく、先のスナック街近くにあった幾分まともそうな店のママに頼んで、ホテルに女のコをよこしてもらうことにした。
ホテルに現れたのは、街と共に年を重ねた四十路の雪国熟女だった。
「あら、東京から? あたしはずっとここにいるのよ。前はもっと多かったんだけどね。今はみんな人妻系よ」
再開発で若返りを図る街と、今もそこで働く、昔は若かった人妻や熟女たち。そのふたつの新たな接点となる将来は、新しい函館の街にやってくるのだろうか…。
(写真・文=松本雷太)