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大正14年(1925)春頃のこと、東京・築地のとある“待合”にひとりの「貴婦人風の中年の女」が頻繁に出入りしているということがその界隈で話題になっていた。
待合とは、現在でいうレンタルルームやラブホテルのようなものである。したがって、利用する場合にはたいてい男女同伴となる。
同じ待合を何度も利用していたといっても、それほど特別なことではない。待合はいわゆるプロの女性などが利用することもあるし、現在でいう不倫で使われることもあった。同じ女性をよく見かけるからといって、それだけで怪しいとか話題になるということはない。
ところが、この女性の場合、同伴の男性諸氏が、世間で知られた実業家とか、上流階級の名士たちだった。そのためおのずと人目を引くようになり、「あの女、何者?」と噂になっていったのである。
その噂を聞きつけて、警察当局も動き出すようになった。庶民が事件に巻き込まれても、警察や役所は平気だが、エライ人たちが関係してくると、ケーサツのエライ人も動くようになるものである。この点、昔も現在もまったく同じなのはよく知られているところだ。
さて、警察が慎重に調査を進めた結果、女性は麹町に住む会社員の内妻(29)だということが判明。捜査を当たった麹町署が女性を呼んで取り調べたところ、予想以上の事実が判明した。