様子を知るべく、少し離れた所から観察することにした。彼女たちは、道行く男に自ら声をかけることはなかった。しかし、男に声をかけられれば、うなずいて二人して路地裏に消えていくというパターンだった。
娼婦たちは常に3、4人で固まっていて、一人で立っていることはあまりなかった。複数人との交渉が苦手な私にとっては、困った事態といえた。一人を選ぶという行為に、どうしても申し訳ないという気持ちが芽生えてしまうのだ。
しばらく傍観していたが、その間に、運悪く一人で立っている女性は交渉が成立してしまった。私は仕方なく3人組のもとへ足を運んだ。どの女性も胸が大きく、腰のくびれもイロっぽく、フラメンコダンサーのようだった。
「ハポネス?(日本人?)」
「ワオ! フヒヤマ(富士山)、サムライ!」
からかうように声をかけてくる彼女たちに戸惑いながらも、「クアント・クエスタ?(いくらですか?)」と聞けば、「150(ユーロ)」日本円で約2万円程度であった。正直に高いと思ったので、「マス・バラット・ポルファボール(安くして)」とお願いするが、この値引き交渉にヘソを曲げ、その瞬間から相手にしてもらえなくなった。
どうやらマドリードの娼婦たちは、違法でなく“仕事”として売春を行っているので、誇りがあるようだ。
結局、私は150ユーロを払い、アンヘラというバストの大きな(ウエストもあるが…)ブロンド美人と交渉が成立した。ちなみに、“アンヘラ”には天使という意味があるのだとか。それならば、スペインの熱き夜の天使になってもらおう! そう思い、私は彼女の後について路地裏へ入っていった。
いわゆる“ヤリ部屋”には、古びたアパートメントの部屋を使っていて、そのフロアには元締めらしきオバちゃんがいた。彼女に150ユーロを払い、一番奥の部屋へ通された。そこは3畳程度の広さで、ベッドがあるだけの、シャワーもない殺風景な空間だった。
実は、彼女を選んだ理由のひとつに、多少ではあるが英語ができるというのがあった。コチラも日常会話レベルでスペイン語を理解できないわけではないが、コミュニケーションはより取れた方がいいと考えたのだ。しかし、彼女が話す“英語”は「ファスター!(急いで)」くらいで、とにかく早く終わらせて次の客を取りたいという空気が漂っていた。
このあたりが、「個人が金銭などの見返りに性的関係を持っても刑罰にあたらない」、つまり売春が認められている地域の女性の特徴のひとつだといえる。とにかくビジネスライクなのだ。稼がなくてはならない=一晩に何人の相手をできるか、なのだから当たり前といえばそれまでだが…。