空港での驚きは、まだまだ続いた。窓の外を見て思わず、「ここはエジプトか?」と、つぶやいてしまった。滑走路の向こうにピラミッドがあったからだ。実は、これは『ルクソール』というエジプトをテーマにしたホテルで、ラスベガスには、このようなコンセプトホテルが数多く存在する。ミニチュアのエッフェル塔がシンボルの『パリス ラスベガス』や、巨大なピエロが目印でテーマパークが付随している『サーカス・サーカス』といったホテルが建ち並び、街全体が遊園地のようで、バスからその景色を眺めているだけでもワクワクした。
私が宿泊したホテルには当然のようにカジノがあった。「一儲けしてから売春宿へ…」という下心を持ったことがいけなかったのだろう。散々たる結果になり、危うくそれどころではなくなるところだった。それでも何とか挽回し、20ドルではあるが黒字で終了することができた。こういった微妙な勝負の結果には、「ギャンブルは、負けなければ勝ちに等しい」と思うしかない。
次の日、いよいよ目的を達成する時間がやってきた。意気込んで町を歩いてみても、ラスベガスの町には、売春宿のような建物が見当たらない。
空腹を覚え、仕方なくコーヒーショップに入ることにした。現在であれば、スマホで情報を得ることもできるが、当時は携帯電話がようやく出現したころだった。
私の表情に不安さが出ていたのだろう。50歳くらいの白髪の男性スタッフが「何かお困りでも?」と声をかけてきた。私は正直に、キャットハウス(=売春宿のスラング)を探していることを伝えた。
すると、「ここにはないよ」とキッパリ言われることに。ネバダ州は売春が合法のはずでは? 思わず耳を疑った私に、彼は「たしかにネバダ州では認められている。だけど、ラスベガスでは禁止なんだ」と教えてくれた。
どうやら同じネバダ州でも売春が可能な郡(地域)とそうでない場所があり、ラスベガスを含むクラーク郡は州法で違法で、その隣のナイ郡では認められているという。また、スタッフ氏のオススメはライアン郡なのだそうだ。
彼の話によれば、バスが出ているため、昼間であれば簡単に行くことができるという。私はバスの時間を調べてもらい、5時間後にはライアン郡にいた。地図を頼りに、教えてもらったキャットハウスに辿り着いた。そこは、一見すると普通の民家という感じだった。しかし、周辺のセキュリティが物々しく、緊張感が漂う。
チャイムを押すと、マダムという言葉がピッタリな貴婦人風の女性がドアを開けた。待合室に通され、「チャイニーズ? ジャパニーズ?」と海外では定番の質問。日本人であることを伝えると、内線で誰かを呼んだ。