性犯罪者のなかには、その性癖から常習的に犯行を重ねる者も少なくない。明治や大正の新聞記事を見ると、連続婦女暴行犯の事例など珍しくはない。10代の少年がレイプを繰り返していたという事件なども、いくつも見つかる。
その一方、変質的な事件もまた少なくない。
たとえば、明治42年8月19日、東京・浅草に住む15歳の男が少女の下半身を切りつけたようとして警察に逮捕された。
この男は長野出身で、上京して41年7月から浅草で住み込みで働くようになった。ところが、この年の5月下旬頃から、向柳原(現・浅草橋)あたりに出没しては、通りかかる少女に背後から近づき、着物のすそをまくって臀部に切りつけるという犯行を行うようになった。
ターゲットになった少女は、大半が12歳くらいで、なかには9歳くらいの女の子もいた。
犯行は、最初の頃は五寸釘の先端を尖らせたものを使っていたが、しだいにそれでは満足できなくなった。そして、長さ5寸刃わたり3寸の小刀を入手し、それを使って犯行を重ねていた。5寸すなわち約15センチ程度の小刀であるから、十分な殺傷能力を有する凶器である。
そして、8月19日の夜8時頃、この男は下谷に遊びに来ていた少女数名を襲おうと近づいていた。
ところが、少女たちの中のひとりが去る6月この男の被害にあっており、男の顔をしっかりと覚えていたため、「あっ、私を斬った小僧が来た!」と騒ぎ立てた。そして、近くの派出所の警官がそれを聞いて駆けつけ、男を取り押さえたというわけである。
この男の被害にあった少女は、わかっているだけでも40人以上にも及んだという。またこの男、それほど多くの少女を襲いながら、身体に触るとか、脅してセックスを強要するとか、そういうことは一度もなかった。常に、少女のお尻に切りつけると、一目散に逃げるという行為だけを繰り返していたのであった。
同じような、変質的というか変態的というか、変わった嗜好による犯罪はほかにも記事になっている。
明治27年2月のこと、東京・神田で「往来で美人の女性ばかりを棒で襲っている男がいる」との通報を受けて警官が出動。現場に着くとすでに犯人は逃亡したあとだったが、別の場所で同様の犯行発生との知らせを受けて警官が急行すると、血まみれの棒を持って呆然としている20代後半の男を発見した。すぐに身柄を確保し警察で取り調べると、あっさりと犯行を認めた。
この男、浅草に住む28歳の男で、ある美人にプロポーズしたものの拒絶され、ショックで頭がおかしくなってしまったという。以来、美人を見ると殴りたくなるようになってしまったと話した。
その後の調べで、男から殴られて頭部や顔面を負傷した被害者女性が何人も見つかった。ところが、そのなかの一人の主婦などは、怪我をして帰宅するとご主人から「浮気をして相手から殴られたのではないのか」と疑われたという。殴られたうえに旦那さんから疑われるとは、気の毒な話だと記事は締めくくっている。
(文=橋本玉泉)