そこで、証人として一人の少女が警察に呼ばれた。旧制小学校に通う14歳の少女で、おさげ髪にあどけない表情をしてはいるものの、すでに遊び慣れたような雰囲気の女の子だった。
係官は彼女を検挙された連中のところに連れて行き、「貴方を誘惑した男はここにいるか」と尋ねた。
すると彼女は、廊下に並んでいる不良たちの顔を見渡すと、平気な顔で、「ハイ、あの書生さんとは13歳の時に」「あの男の人とも遊びました」などと言いながら、次々に指差していった。その数は40人以上に及んだ。
指差された不良たちは、身に覚えもありもはや隠せないと観念して、全員が白状したという。
この光景に誰よりも驚いたのは、少女に付き添ってやってきた母親だった。
「今日まで娘がこんなに大勢の男と関係していた事は親の身でもわかりませんでした」
と、ひたすら平身低頭。帰り際には署内の廊下を歩きながら、母は娘をピシャピシャ殴っていたという。
その後の調べで、検挙された者の多くは異性との乱れた関係を繰り返していたらしい。16歳くらいで愛人関係などは当たり前で、男女関係のもつれで少女に暴行を加えて金品を巻き上げたり、14歳の少年が17歳の少女を言いくるめて関係を持ったりというケースが次々に出てくる。警察もさぞ忙しかったことであろう。
(文=橋本玉泉)