ちなみに、銭湯が現場になった事件はいろいろ発生している。たとえば、明治16年3月14日、東京・築地のある銭湯に外人男性が全裸になって乱入、「私、女好き!」と叫びながら女性客に近づいたため大騒ぎとなり、取り押さえられて警察に突き出された。事情を聞くと、その男はドイツ人の「オンナースキー」という男だったという。名乗りながら女性と懇意にでもなりたかったのだろうか。
また、銭湯がオープンだったのは、それほど昔の話ではない。
たとえば、男湯と女湯は隔てられてはいるものの、行き来するのは非常に簡単だった。脱衣所へ隔てる壁にはくぐり戸があって、鍵も何もついていない。手で押せば子供でも開けられたのである。ただ、常識的な意識から、女湯に乱入しようなどという男性客はいなかったというだけである。
さらに、現在では考えられないことであるが、女湯や女性側の脱衣所に成人男性がウロウロしていても、まったく問題にならなかった。もちろん、一般客ではなく銭湯の男性従業員だったりするわけだが、それでも「お風呂屋さんの人」ということであれば、女性客は別に騒ぐわけでもなく容認していた。そもそも、脱衣所が見わたせる番台に男性が座っていても同様だったのだ。せいぜい、「今日の番台はオジサンよ。いやねぇ」とぼやく程度だった。
これは遠い昔のことではない。筆者が知る限り、ほんの20年ほど前までこんな状態だった。最近では昔ながらの銭湯も少なくなって、利用する機会も少なくなってしまったが、現在ではどのような感じなのだろうか。
(文=橋本玉泉)