記事には詳細が説明されていないので、推測または憶測に頼るほかはないのだが、ナースの女性が怒りのあまり5人の男たちに何らかの依頼をしたことは事実のようである。だが、どんな依頼をしたかは不明だ。
これは推測だが、金銭よりも逃げた男をとにかく懲らしめてほしいと頼んだのかもしれない。その代わりに、巻き上げた現金はいらないと言ったのではなかろうか。だから、男たちは手にした手切れ金を山分けにしたとも考えられる。憶測の域を超えるものではないが。
また、記事には「暴力団」と書かれているが、5人の男たちがどこかの組織に所属していたのか、それとも単なる無頼の徒だったものを新聞記者がこう表現したのかも不明である。
ちなみに、「暴力団」という表現そのものはすでに戦前からわりと一般的に使われていたようである。昭和9年から刊行が始まった『大辞典』にも、暴力団の項目が載っている。
この後、5人の男やナースがどうなったのかは不明だ。ナースと医者の息子との間に、どのような経緯があったのかもわからない。たしかに、妊娠させて逃げるというのは卑怯な行為であるし、どのような成り行きがあろうと女性が不利なのも事実である。
しかし、だからといって無法者に対処を依頼するもの、得策とは言いかねる場合が少なくない。
似たようなケースはいくらでもあるが、個別の事情や状況はどれも異なる。どのように判断すればいいか、なかなか難しいところである。
(文=橋本玉泉)